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『ラッキー』友人たちの尊敬の念が結実した、名優ハリー・ディーン・スタントン(90歳)最後の主演映画
映画化を実現させた映画界の盟友たち
しかし、映画の主役を演じるというのはとてつもない重労働だ。当初は半ば引退状態のスタントンが出演を快諾するとは思えなかったという。そこで脚本を書いたスパークスは一計を案じた。
「ハリーが共演を楽しめる役者をそろえる必要があった。義務感では彼は受けない。本気でなければ腰をあげてくれないからね」
実際にスタントンと親交のあるエド・ベグリー・Jr.など名優たち数人を先にキャスティング。そこで満を持して、「ほら、あなたの友達たちも出てくれますよ。だから、ね?」といった具合にスタントンに出演交渉を行ったようだ。だからこの映画の共演者の多くはスタントンの知己で固められており、『 エイリアン』(1979)で命を落とす船長を演じたトム・スケリットとも37年ぶりに共演した。そんな出演者の中で一際目をひくのは、スタントンの親友を演じた映画監督デヴィッド・リンチだ。リンチは監督作『 ワイルド・アット・ハート』(1990)以来スタントンと親交があり、盟友ともいえる間柄。そのリンチの演技がとても素晴らしい。自分のペットであり親友であるリクガメを失った心情を切々と語る彼の演技には思わず引き込まれる。
『ラッキー』(c) 2016 FILM TROOPE, LLC All Rights Reserved
『ラッキー』はスタントンと彼ら友人との日常の何気ない会話でストーリーが進行する。そこには常に暖かで柔らかな空気が流れ、観る者に不思議な多幸感を生み出す。それはとりもなおさず、このキャスティングの妙に負うところが大と言えるだろう。
劇中にこんなセリフがある「孤独と一人暮らしは意味が違う」
人は人生においてはみな一人だし、一人であることは受け入れざるを得ない。しかし、人生は孤独に浸食されるだけの時間ではないとスタントンは語る。
「一人が皆、一人ずつであるということ。あらゆるものも含めて。だからつながろうとすること。映画も良い作品は皆、そのことに意識的だと思う。そのことで生命を肯定する方向に人を動かそうとするのが良い映画なんだ」
『ラッキー』でスタントンは映画界の盟友たちとつながろうとし、それは成功した。これはスタントンの考えに当てはめると、作品は紛れもなく「良い映画」となったということだろう。
※文中のインタビューなどは劇場用パンフレットから引用しています。
文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)など。現在、ある著名マンガ家のドキュメンタリーを企画中。
『ラッキー』
2018年3月17日(土)新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
2017/アメリカ/88分/英語/シネスコ/5.1ch/DCP
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/lucky/
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※2018年3月記事掲載時の情報です。