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不思議なあいさつ、〈nothing〉とは?
2017年9月、惜しまれながら鬼籍に入った稀代の名優ハリー・ディーン・スタントン。彼の最後の主演映画『ラッキー』は彼自身の人生を写し取った作品だ。彼の弟子とも言える二人の脚本家が創造したラッキーという老人は、スタントン自身の人格を劇中に再構築したような人物なのだ。90歳の老人ラッキーが語る人生のエピソードはスタントンの実際の体験に基づいており、口癖もスタントンそのものだという。
中でも一際印象的なのが「ナッシング(nothing)」というセリフだ。これは劇中でラッキーが訪れる古馴染みのカフェの店主にかける挨拶代わりの言葉で「よう、ろくでなし」といったほどの意味になる。スタントンは同じ言い回しを日常生活でもよく使っていたという。この「nothing」こそスタントンの人生観の根本をなす言葉なのだろう。