『ラッキー』あらすじ
神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。いつものバーでブラッディ・マリアを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中でふと、人生の終わりが近づいていることを思い知らされた彼は、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、去っていったペットの亀、戦禍で微笑んだ日本人の少女――小さな街の人々との交流の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく。
Index
不思議なあいさつ、〈nothing〉とは?
2017年9月、惜しまれながら鬼籍に入った稀代の名優ハリー・ディーン・スタントン。彼の最後の主演映画『ラッキー』は彼自身の人生を写し取った作品だ。彼の弟子とも言える二人の脚本家が創造したラッキーという老人は、スタントン自身の人格を劇中に再構築したような人物なのだ。90歳の老人ラッキーが語る人生のエピソードはスタントンの実際の体験に基づいており、口癖もスタントンそのものだという。
『ラッキー』(c) 2016 FILM TROOPE, LLC All Rights Reserved
中でも一際印象的なのが「ナッシング(nothing)」というセリフだ。これは劇中でラッキーが訪れる古馴染みのカフェの店主にかける挨拶代わりの言葉で「よう、ろくでなし」といったほどの意味になる。スタントンは同じ言い回しを日常生活でもよく使っていたという。この「nothing」こそスタントンの人生観の根本をなす言葉なのだろう。