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『ブルーベルベット』で開花した、デヴィッド・リンチの鬼才たりうる才能の片鱗

(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『ブルーベルベット』で開花した、デヴィッド・リンチの鬼才たりうる才能の片鱗

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『ブルーベルベット』あらすじ

赤いバラ、白いフェンス、青い空——。絵葉書のようなアメリカの典型的な田舎町ランバートン。病院に父を見舞った帰り道、大学生のジェフリーは、野原で切り落とされた人間の片耳をみつけた。その耳の真相を追い求めていくうちに、謎めいたキャバレーの女性歌手ドロシーの存在を知り、次第に犯罪と暴力、SEXとSMのアブノーマルな世界に足を踏み込んでいく……。


Index


奇妙なリンチ・ワールドの原点



 快作『イレイザーヘッド』(77)で一躍その名を轟かせたのは、シュールレアリスムの旗手として知られる、デヴィッド・リンチ監督だ。鬼才、巨匠、カルトの帝王など、どの異名もカチッと当てはまるのが、彼の恐ろしさであり、凄さだ。彼の映画は、統一性に欠ける種々のジャンルを内包し、形容しがたい世界観を創り上げている。『ロスト・ハイウェイ』(97)では“記憶”というファクターを用いて、妻殺しの男の数奇な逃避行を描き、『マルホランド・ドライブ』(01)では“夢”と“現実”の狭間を描写し、奇妙な幻想を映し出した。


 リンチの作品というのは、決して複雑なだけの映画ではない。どの作品も、矯めつ眇めつ俯瞰すれば、きちんとした明確なテーマが浮き彫りとなる。脈略のないストーリー、入り乱れた時系列、そしてときにはユーモアを交えつつ、比類なき芸術性を散りばめているが、その中核となるストーリーは確実に存在する。


『ブルーベルベット』予告編


 そうした作風の原点となるのが『ブルーベルベット』(86)なのだ。今でこそリンチの映画は、その複雑さから難解映画の代名詞であるとか、多様な題材を盛り込んだ奇譚であるだとか、そもそも意味が解らないというふうに評論されているが、そういった捉えどころのない作風というは、『ブルーベルベット』を転換点として確立されていった。


 『ブルーベルベット』の舞台となるのは、50年代の芳香が漂う、アメリカの片田舎だ。病床に臥せた父を見舞うため、大学生のジェフリー・ボーモント(カイル・マクラクラン)は、ノースカロライナ州の小さな田舎町ランバートンに帰郷した。父の見舞いの帰りの道中、青年ジェフリーは茂みの中で、切断された人間の片耳を発見する。彼は、父の友人の刑事ジョン(ジョージ・ディッカーソン)にその問題の片耳を届け、それが縁となってジョンの娘サンディ(ローラ・ダーン)と親しくなるのだった。


 ジョンの話を盗み聴きしたサンディによると、問題の片耳事件にはドロシー・ヴァレンズ(イザベラ・ロッセリーニ)なるクラブ歌手の関与があるそうだ。好奇心に駆られたジェフリーは、事件の真相を暴くため、ドロシーが暮らすアパートメントに潜入するのだった……。



『ブルーベルベット』(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.


 そういうふうにして、主人公のジェフリーは、深淵なる闇の世界へと引きずり込まれてゆく。端的にいうと、この作品というのは、平穏に見える田舎町の知られざる暗部を暴き出している。そういう明確なテーマの中で、リンチはラブロマンス、フィルム・ノワールのような退廃的描写、倒錯的なセクシュアルと暴力、そして少しのユニークさを交えた、リンチの才能を存分に生かしきった作品となった。


 本作はその過激さゆえに批判もあったが、結果的には多くの賞を受賞し、一定の成功を収めた。そうして現在のデヴィッド・リンチの奇々怪々な作風は確立されたのだ。



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