2019.09.04
『マルホランド・ドライブ』あらすじ
真夜中のマルホランド・ドライブで自動車事故が起こる。一命をとりとめた黒髪の女は、助けを求めにハリウッドまでたどり着く。女性が偶然潜り込んだ家は、有名女優ルースの家だった。ルースの姪であるベティは、女を叔母の友人だと勘違いし、女も話を合わせるが、彼女は記憶喪失になっていたのだ。リタのバッグには大金と青い鍵。ベティはリタの失った記憶を取り戻すことに協力する。
Index
映画という名の未完成のパズル
わたしは一体なにを観ていたのか。まるで理解できない。『マルホランド・ドライブ』(01)とは、そういう映画である。陳腐な言葉で言い表すのなら、この映画はカルトのそれだ。不連続な物語は、最後まで収斂しない。ただ野放しにされ、放り投げられるだけである。言うなればパズルのように、地道に組み立てていくしかない。組み立て方は自由自在で、すべては観る者に委ねられる。正しい組み合わせは存在しない。非常に難儀な映画なのだ。
この映画は、極めて厄介だ。語るにしても、どこから語ればいいものか。見当が付かない。これは“現実”であり、また“夢”でもあり、そして“空想”であるからだ。これらのファクターを、ひとつの作品、ひとつの物語として抽出したものが、この『マルホランド・ドライブ』なのである。映画というよりは、抽象芸術に近い。その映像は、監督デヴィッド・リンチの頭の片隅を、そっと盗み見た感覚だ。監督のアイディアを、不連続な映像として、スクリーンに投射したような、そういう奇妙さがある。いうなれば、この映画は未完成だ。アイディアの断片を、観客が繋ぎ合わせる。そうして映画という名のパズルは完成するのである。
『マルホランド・ドライブ』予告
題目の『マルホランド・ドライブ』とは、映画の都ハリウッドに実在する、ロサンゼルス北部の峠道だ。ショービズ界の住人が集う“ハリウッド・ヒルズ”を通過し、西側のウッドランド・ヒルズまで続く道路は、稜線に沿ってくねくねと曲がりくねっている。片側一車線のこの道路は、走り屋スポットとしても有名で、スリルを求めたスピード狂の集いの場ともなっている。ゆえに「No Stopping Any Time.(絶対に止まるな)」というサインは厳守したい。でなければ、事故は免れないだろう。
この道路は危険をはらんでいるが、その反面、走りたくなる別の一面もある。夜景だ。眼下に広がるロスの夜景は、あらゆるものを呑み込みそうなほどに美しい。マルホランド・ドライブを行き交う人々には、この夜景を求める人も少なくない。しかし、である。この街には、その表向きの美しさとは裏腹に、深淵とした“闇”が潜んでいるのだ。
この映画は、一見脈略のない物語に思えるが、それらパズルを完成させると、そういうハリウッドの虚栄が浮かび上がるのである。本作が描く奇譚の一幕は、近年も『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)といったカルト的作品に、脈々と受け継がれている。