『ラブレス』あらすじ
一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャの夫婦。ふたりは離婚協議中で、家族で住んでいるマンションも売りに出そうとしている。言い争いのたえないふたりは、12歳の息子、アレクセイをどちらが引き取るのかで、激しい口論をしていた。アレクセイは耳をふさぎながら、両親が喧嘩する声を聞いている。
ボリスにはすでに妊娠中の若い恋人がいるが、上司は原理主義的な厳格なキリスト教徒で、離婚をすることはクビを意味していた。美容サロンのオーナーでもあるジェーニャにも、成人して留学中の娘を持つ、年上で裕福な恋人がいる。ジェーニャは恋人と体を重ね、母に愛されなかった子供時代のこと、そして自分も子供を愛せないのだと語る。「幸せになりたい。私はモンスター?」と尋ねる彼女に、恋人は「世界一素敵なモンスター」だと答える。ボリスもジェーニャも、一刻も早く新しい暮らしを始めたいと、そればかりを考えていた。
両親がデートで家を留守にするなか、息子が通う学校からアレクセイが2日間も登校していないという連絡が入る。自宅にやって来た警察は、反抗期だから数日後に戻るだろうと取り合ってくれず、ボリスとジェーニャは市民ボランティアに捜索を依頼する。夫婦とスタッフは、心当たりのある場所のひとつとしてジェーニャの母の家を訪ねるが、そこにはアレクセイの姿がないばかりか、彼女は別れて中絶しろと言った忠告を聞き入れなかった娘に自業自得だと、激高しながら告げるのだった。
帰りの車中で「結婚したのは母から逃げたかったから。あなたを利用したつもりが、家族を求めるあなたに利用された」と言い、中絶をすればよかったと後悔の念を口にするジェーニャ。捜索を続けるなか、アレクセイがチャットで話していた“基地”が、森の中の廃墟ビルの地下にあることが、クラスメイトの証言から判明する。夫婦と捜索隊は、その廃墟へと足を踏み入れるが……。
Index
ロシアの偉大なる作家たちと並ぶ映画監督、アンドレイ・ズビャギンツェフ
力強い映画監督が現れたとき、その国の偉大なる先人と比較されてしまうのは宿命である。日本で言うなら、溝口健二、小津安二郎、黒澤明と何かと比較されてしまう、という風に。
ところが、ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフの場合、アンドレイ・タルコフスキーと比較されるのはもちろん、さらに遡ってアレクサンドル・プーシキン(1799-1837)やニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)、フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821-1881)といった19世紀の偉大なる小説家の名前がもれなく付随して、作品が批評される運命にある。不条理を描く作家であること、時代を越えた普遍的な家族の悲劇を描くこと、いくつもの理由が存在するが、見た後に消化できない重くて苦い圧倒的な読後感を残す、という点で、まさに重量級の作家たちと同じ地平線で語りたくなる、いや、語るべき映像作家であるからだ。
『ラブレス』©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS
彼の作る映画が凄いのは、たった一行で説明できてしまう話であるところだ。初監督作でベネチア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞した『 父、帰る』は長年不在だった父親が戻ってくる話、『 ヴェラの祈り』では、よその男の子どもを妊娠したと妻が夫に打ち明ける話、『 エレナの惑い』は大金持ちと再婚した初老の女性が財産を自分の子どもに残そう奮闘する話、『 裁かれるは善人のみ』は町の都市開発で廉価な値段で土地を買収されそうになる自動車修理工の話、そして最新作『ラブレス』は離婚の物語。