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家族の崩壊を描いて世界を再構築するズビャギンツェフ監督の到達点『ラブレス』

家族の崩壊を描いて世界を再構築するズビャギンツェフ監督の到達点『ラブレス』

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 アンドレイ・ズビャギンツェフはソ連時代の1964年にシベリアで生まれ、現在54歳。初の長編監督作『父、帰る』(2003年)がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と新人監督賞を受賞し、一躍世界の注目を集めた。そして、現在公開中の5作目『ラブレス』はズビャギンツェフ映画の集大成とも言われる。本稿ではそのフィルモグラフィーをたどりながら、『ラブレス』につながるモチーフや要素、象徴性や寓意を、監督のインタビューなども手がかりにしつつ論じてみたい。




始めに家族ありき。『父、帰る』



 ロシア国立舞台芸術大学で学んだのち、10年近くほそぼそと俳優活動を続けていたズビャギンツェフに、監督になるチャンスをもたらしたのは、ロシアの民間テレビ局REN TVの共同創設者で映像プロデューサーのドミトリイ・レスネフスキー。レスネフスキーはズビャギンツェフにテレビドラマのエピソード3話を演出させたのち、『父、帰る』の初期脚本を渡して、長編映画を監督してみないかと持ちかける。


  IndieWireのインタビュー(英語)によると、当初の脚本は、父親の持つ箱が悪党に狙われるスリラー作品だったという。プロデューサーから改変の許しを得て、監督は「観客が時の経過を感じられるよう」7日間の区切りを加え、12年ぶりに帰ってきた父と息子2人との関係を軸とする家族のドラマを構成した。




 ズビャギンツェフはまた、帰宅してベッドで眠る父を最初に映すショットでアンドレア・マンテーニャの絵画『死せるキリスト』を模倣するなど、「父=キリスト」のイメージを追加。英題『The Return』に直接対応するロシア語の原題は、「帰還」だけでなく「復活、生き返り」の意味も持つ。


 聖書に関して、父と2人の息子が登場する「放蕩息子のたとえ話」との類似点もある。親に財産の生前分与を求めて得た弟が旅立ち、放蕩の末に帰還した子を父は許すが、兄は不満に思う。一方の『父、帰る』では、戻ってきた父を兄アンドレイは受け入れるが、弟イワンは反発する。「たとえ話」における弟、父、兄の役割を組み換えて、『父、帰る』における父、兄、弟にそれぞれ割り当てたと考えられる。


 ほかにも、少年が湖に飛び込む行為で“洗礼”(大人への通過儀礼)をイメージさせるなど、さまざまな形で宗教的な含みを持たせることで、物語世界に深みを与えているのだ。


 海や湖といった〈水〉は、命の生まれる場所であると同時に、命が還るところ、根源的な死への恐怖とも結びつく。『父、帰る』を含め、ズビャギンツェフの長編すべてを手がけることになる撮影監督ミハイル・クリチマンによる、美しくも冷ややかな〈水〉の表現が、そんな印象を一層強める。以降の作品でも、『エレナの惑い』(2011年)のプール、『裁かれるは善人のみ』(2014年)の海、そして『ラブレス』の川など、いずれも〈水〉は不幸な出来事を予感させる場所として機能している。



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