家族の脆弱さが前景化した『ヴェラの祈り』
前作のプロデューサー、レスネフスキーが次に持ち込んだのは、米作家ウィリアム・サローヤンの小説『どこかで笑ってる』に緩やかに基づく家族劇『ヴェラの祈り』(2007年)。この作品以降すべてで、オレグ・ネギンが脚本に参加している。兄から田舎の家を借りた弟が、休暇に妻と子供2人を連れて訪れるが、妻から「妊娠したの、でもあなたの子じゃない」と告白される――という筋書きだ。
『父、帰る』予告
『父、帰る』では妻の存在が薄かったが、『ヴェラの祈り』の妻・ヴェラは、内向的な性格でありながらその言動で夫を苦悩させ、他の男たちにも間接直接に影響を及ぼす。ヴェラの告白は、夫と妻の愛をめぐる重苦しい試練となり、それがやがて家族に悲劇を招く。
ズビャギンツェフは、『クリスティーナの世界』で知られるアンドリュー・ワイエスの絵画に着想を得、また、大雨で水浸しになる大地のショットなどで『サクリファイス』をはじめとするアンドレイ・タルコフスキーの諸作の影響を感じさせながら、重厚な神話的映像世界を構築している。