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家族の崩壊を描いて世界を再構築するズビャギンツェフ監督の到達点『ラブレス』

家族の崩壊を描いて世界を再構築するズビャギンツェフ監督の到達点『ラブレス』


神話的で寓意に満ちた『裁かれるは善人のみ』



 英題は『Leviathan』で、原題もこれに対応するロシア語。旧約聖書「ヨブ記」に登場する海中の巨大な怪物レビヤタン、この怪物を個人が抵抗できない国家にたとえて論じた17世紀の政治学者ホッブズの著書『リヴァイアサン』、19世紀ドイツの小説『ミヒャエル・コールハース』、そしてアメリカで2004年に起きた土地再開発をめぐる悲劇的な事件(キルドーザー事件)から着想を得て作られたのが、『裁かれるは善人のみ』(2014年)だ。


 ズビャギンツェフとネギンの共同脚本は、舞台をロシアの入り江に面した小さな町に設定。住み慣れた家に妻子と暮らす自動車修理工が、再開発のため土地を買収しようと画策する強欲な市長に抵抗する姿を描く。




 全5作の中で、国家と個人、政治と宗教の関係といった寓意が最も明白で、あからさまと言ってもいい。なにしろ、執務室に座る腹黒い市長の後ろの壁には、プーチンの肖像写真が掲げられているのだ。しかも、本作がロシアから資金援助を受けて製作されたというから、監督のただならぬ反骨精神に恐れ入る。


 そして、入り江に打ち上げられたクジラの巨大な骨や、朽ち果てた船の残骸といった圧巻のビジュアルも、自然の摂理に対する人間の非力さ、大いなる存在の意志の不可知性を感じさせ、神話のように荘厳な雰囲気を漂わせる。


 *****


 こうしてフィルモグラフィーを振り返ってみると、家族というモチーフ、寓意性と神話性、説明されない謎と解釈の余白、美しくも不吉な気配をはらむ詩情豊かな景観ショットなど、ズビャギンツェフ監督の作家性を特徴づける諸要素が繰り返し用いられながら洗練されていき、『ラブレス』に至ったことがわかる。




 ズビャギンツェフが描く家族は、例外なく試練に直面し、誰かが消え、あるいは失われ、そして崩れていく。大雑把にくくるなら、これらはみな悲劇に分類されるだろう。


 しかし、監督は重苦しく無慈悲な現実を反映させながらも、希望をなくしてはいない。家族が、個人が置かれた状況の奥にある根源的な問題をあぶり出して示すことが、明日の世界を変える力になると信じている。崩壊する家族の映画を通じて世界を再構築することこそが、ズビャギンツェフの崇高なミッションなのだ。



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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作品情報を見る


『ラブレス』

4月7日(土)、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

公式サイト: http://loveless-movie.jp/

©2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS

配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム、STAR CHANNEL MOVIES


※2018年4月記事掲載時の情報です。

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