※2018年5月記事掲載時の情報です。
『女神の見えざる手』あらすじ
大手ロビー会社で辣腕をふるうエリザベス(ジェシカ・チャステイン)は、銃擁護派団体から仕事を依頼される。女性の銃保持を認めるロビー活動で、新たな銃規制法案を廃案に持ち込んでくれというのだ。信念に反する仕事はできない…エリザベスは部下を引き連れ、銃規制派のシュミット(マーク・ストロング)の小さなロビー会社へ移籍。奇策ともいえる戦略によって、形勢を有利に変えていく。だが、巨大な権力をもつ敵陣営も負けてはいない。エリザベスの過去のスキャンダルが暴かれ、スタッフに命の危険が迫るなど、事態は予測できない方向へ進んでいく……。
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男社会に果敢に切り込む、ジェシカ・チャステインの「強い女」
もはやアメリカ映画における一ジャンルを形成するに至っていると言っていいのではないだろうか。
そう、ジェシカ・チャステインの演じる、媚びない、揺らがない、屈しない、強い女を演じた一連の作品である。ジェシカが演じるヒロインが反発し、勝負を挑むのは強固な男社会であったり、権力や金で弱者をねじ伏せようとする強者の論理だったり、無差別に人の命を殺めるテロ組織だったりする。
『女神の見えざる手』では、銃規制法案を潰そうとする政治家の目論見を一蹴し、徹底抗戦するロビイストを毅然と演じた。原題は「Miss Sloane」というシンプルなもの。ジェシカは脚本を10頁ほど読んだだけで、迷いなく出演を決めたという。彼女が即断したのは、監督のジョン・マッデンとの仕事を熱望していたためで、そこには二人が出会った2011年の映画『 ペイド・バック』(日本未公開、ビデオスルー作品)の存在がある。この映画にこそ、ジェシカの「強い女」シリーズの原点となる要素が見られ、興味深い。
『女神の見えざる手』(C)2016 EUROPACORP - FRANCE 2 CINEMA
『ペイド・バック』でジェシカが演じたのは、イスラエルの対外諜報機関モサドの一員。元ナチスの幹部で、ユダヤ人を虐殺した医者を拉致するミッションを与えられた諜報員を、まさにクールな表情で演じている。CIAやMI6に比べ、格段に採用条件が厳しいと言われるモサドの一員である誇りを持ちながら、ミッションに失敗し、そこでついた重い嘘を30年後に清算せざるを得ない事態に追い込まれる。ジェシカは責務と向き合う中、二人の男に愛され、どちらを選ぶかで揺れる女性の心理を冷たい表情の中にも滲ませ、苦渋する。30年後のヒロインを演じるのは実力派のヘレン・ミレンであったこともあり、テレビドラマで実力を培って、本格的な映画俳優へと移行する時期のジェシカにとってはステップアップとなった作品である。ジョン・マッデン監督もこのときの確かな感触があったからこそ、『女神の見えざる手』の脚本を手にしたとき、即座にジェシカに声をかけたという。
ジェシカはこの後、『 ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)で、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件の首謀者とされる、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの捕縛に10年もの歳月をかけ、追い続けたCIAの分析官を演じ、『 アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(2014)では1980年代のオイル業界をのし上がろうとする一匹狼の男を、それはしたたかな計算とやり方で自ら汚れ役に徹して支える妻のすごみを表現。『女神の見えざる手』では、銃規制法案を通すために肉を切らせて骨を断つロビイストの徹底抗戦を、観客に簡単には読み取らせない能面のような表情を通して演じていく。5月公開の『 モリーズ・ゲーム』では、実話をベースに、大金をかけたスリリングなゲームに身を投じる顧客たちの欲望を上手に転がす、会員制の高額ポーカーサロンの経営者を演じてもいる。
戦う女を演じてスターダムにのしあがった女優では、アンジェリーナ・ジョリーやシャーリーズ・セロンがいるが、チャステインはまた違う路線を突き進む。果たしてジェシカ・チャステインとは何者なのか。