2018.04.20
2人のトリックスターがシリーズの方向性を決めた!
前述の「優しい人に意地悪で、意地悪な人に優しい」という性格付けは、アレンの言動や行動を予測不可能なものにすることに成功した。アレンのリアクションに常識は一切通用せず、いつ不機嫌になるか陽気になるか誰にも分からない。それでいて「意地悪な人に優しい」という属性によって、アランはシリーズを通じて思わぬ人と人を結ぶ触媒の役割も果たしている。その最たるものが、ケン・チョンが怪演した狂気のアジア系ギャング、チャウである。
異様なまでのハイテンションと分裂症的な言動、そして一切の倫理観が通用しない極悪党であるチャウは、『ハングオーバー!』が生んだ最大のトリックスターだ。小柄なアジア人が白昼堂々全裸で暴れまわり、全力疾走して逃げたかと思ったら、スーツ姿で再登場し、他人を延々と下ネタで挑発する。ルール無用のチャウというキャラは、ケン・チョンの破天荒なアドリブによってさらに存在感を増していった。もちろんフィリップス監督もケン・チョンの暴走を奨励していたはずで、ケン・チョンのやりたい放題っぷりはソフトの特典映像の一コーナーとして収録されている。
ただし一作目の『ハングオーバー!』において、チャウはあくまでも悪役に過ぎなかったのだ。しかしアランが常軌を逸するレベルの天邪鬼になることで、思わぬ絆を結ぶことになる。誰もが絶対に関わりたくないと思う邪悪な生き物=チャウと、アランはメル友になってしまっていたのだ!
アランとチャウがいつの間にか友人同士になっていたことは、続編『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』で明かされる後付けの設定だが、一作目でアランとチャウがあそこまでブッ飛んでいたからこそ成立した、想定外の友情ではなかったか。演じたガリフィアナキスとケン・チョンが脚本にはないものを注ぎ込んだ成果と言ってもいい。
チャウは二作目、三作目において欠かせないキャラクターとなり、三作目ではアランの成長とチャウとの訣別が描かれるという、おそらく一作目の関係者が誰も想像していなかった感動的なクライマックスが生まれた。気がつけば『ハングオーバー!』シリーズとはアランとチャウの物語であり、その始まりが、一作目で奇矯なキャラを掘り下げたガリフィアナキスとケン・チョンの怪演に詰まっているのである。
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
ブルーレイ¥2,381 +税 DVD ¥1,429 +税
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