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『aftersun/アフターサン』11歳の夏、空に消えた笑い声の行方

© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

『aftersun/アフターサン』11歳の夏、空に消えた笑い声の行方

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笑い声、歌声の波紋



「君の笑い声が聞こえた気がする、君の歌声が聞こえた気がする」(R.E.M.「Losing My Religion」)


 シャーロット・ウェルズにとってR.E.M.の「Losing My Religion」は、初めて歌詞を覚えた曲だという。カラムの好きな曲として紹介されるこの名曲を、ソフィはカラオケ大会で歌う。歌い終わったソフィが席に戻るとき、カメラは父親の寂し気な後ろ姿を捉えている。『aftersun/アフターサン』ではカラムの背中が多くのシーンで捉えられている。正面から捉える以上に、物言わぬカラムの背中は多くの感情を滲ませている。父親の役割を演じることから離れたカラムの素の姿がそこにはある。


 ソフィは自分が眠りについた後の父親の姿を知らない。一人のときのカラムは、DVカメラを再生して悪戯好きの娘の姿を見ている。ソフィの無邪気な笑い声が暗い部屋に響く。「11歳の時、将来は何をしてると思ってた?」。ソフィの悪気のない質問にカラムは答えを一旦保留する。



『aftersun/アフターサン』© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022


 本作ではカラムの背景についての多くは語られない。しかし二人の間に不意に訪れる沈黙は、夏の海の静けさと同じくらい多くのことを語っている。カラムは30歳を超えたことが信じられない。40歳の自分の姿など想像もできないという。数十年後もソフィのよき父親でありたいという気持ちと、いますぐこの世界から消滅してしまいたいという気持ちの間で、カラムの心は引き裂かれているように見える。ソフィのつぶらな瞳がカラムの挙動、感情の動きを観察している。悪戯好きで賢く、勘のよい少女ソフィ。父親の事情に気を配る知性を持ちながら、甘えるときは思いっきり甘えるソフィ。彼女の愛らしい笑い声が耳から離れない。フランキー・コリオは一度見たら忘れられないほど天才的な演技を披露している。


 きっと忘れない。ソフィは11歳の夏に父親から無償の愛を受けたことを忘れないだろう。父親が愛した「Losing My Religion」のフレーズは、カラムの娘への思いと響き合うだけに留まらない。「君の笑い声が聞こえた気がする、君の歌声が聞こえた気がする」。このフレーズは、大人になったソフィが当時の父親に語りかける美しい“すれ違いの対話”として響き合う。同じ空の下、父と娘はいつまでも笑い合っている。


* Film at Lincoln Center [Mia Hansen-Løve & Charlotte Wells on Memory, Time, and Autofiction in One Fine Morning & Aftersun ]



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




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作品情報を見る



『aftersun/アフターサン』

絶賛公開中

配給:ハピネットファントム・スタジオ

© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

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