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『aftersun/アフターサン』11歳の夏、空に消えた笑い声の行方

© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

『aftersun/アフターサン』11歳の夏、空に消えた笑い声の行方

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不確かな記憶



「ある瞬間を覚えているような気がするけれど、写真を覚えているだけなのかもしれない」(シャーロット・ウェルズ)*


 ミア・ハンセン=ラブとの対談の中でシャーロット・ウェルズ監督は「記憶の不確かさ」について語っている。ミア・ハンセン=ラブの『それでも私は生きていく』(22)が、残された本の中に父親の記憶を形作っていったように、『aftersun/アフターサン』は、ポラロイド写真やDVテープ、そしてポップミュージックの響きの中に11歳の夏を形作っていく。少しだけピントの合っていない不確かな記憶。一番身近にいながら得体の知れない“大人の男性”という存在を強調するかのように、父親の輪郭は朧げに捉えられている。



『aftersun/アフターサン』© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022


 私たちの言葉にできない感情に収まるべき枠組みやスペースを、ポップミュージックは与えてくれる。リアルタイムでよく分からなくても、あとになって良さに気づける音楽もある。分からなかった感情が目の前に立体化されていくような感覚。父親が好きだった楽曲には、少女時代には決して気付けなかったであろうカラムの機微が隠されている。あの夏のすべてを思い出すことはできないかもしれない。しかし残された物の中から感情を形作っていくことはできる。シャーロット・ウェルズは、映像や音楽の断片から11歳の夏の感情を掬い上げていく。いまにも忘れ去られてしまいそうな小さな記憶の破片。それらは一般的な映画ではカットされてしまうような映像かもしれない。しかし本作の絶対的な新しさはここにある。それらは物語を語るよりも、はるかに多くの感情を見せてくれる。


 記憶とは、無形の“部分”と“部分”によって縫い合わされた感情だ。ポラロイド写真には浮かび上がってきたときの感情だけでなく、あとで振り返ったときの二つの感情が交差する。リアルタイムの感情は少しずつ輪郭を失っていき、その人が歩んできた人生が二重に投影される。シャーロット・ウェルズが本作を「感情的な自伝作品」という言葉で形容するのはとても理解できる。シャーロット・ウェルズは家族のアルバムをめくったとき、当時は気づけなかった父親の若さを実感したのだという。




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