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アクション映画の革命作『ダイ・ハード』とゴジラとの意外な関係

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

アクション映画の革命作『ダイ・ハード』とゴジラとの意外な関係

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大森一樹監督が受けた『ダイ・ハード』ショックは『ゴジラ』に影響を及ぼした!?



 いっぽう我が国でも、こうした広い面積のラージフィルムを使い、合成のクオリティを高めた嫡流の人物がいる。平成ゴジラシリーズの特技監督として知られる川北紘一だ。氏はリチャード・エドランドが試みたビスタビジョンで素材を撮影し、それを65mmフィルムに合成するという方法を日本で初めて実践。『 ゴジラvsビオランテ』(89)では芦ノ湖に出現したビオランテを見上げる三枝未希(小高恵美)らをワンショットに収めたり、また『 ゴジラvsキングギドラ』(91)では、飛来してきた未来人のUFOと自衛隊が同一フレーム内で対峙するショットをクリエイトしている。しかもどちらもフィックス(固定)ではなく、合成画面内でパン(移動)がおこなわれるという、高精細を活かしたアクロバティックな合成ショットを手がけたのだ。


『ゴジラvsビオランテ』予告


 奇しくも川北は『ゴジラvsビオランテ』の前作である実写巨大ロボ映画『 ガンヘッド』(89)の特撮シーンを撮影していたとき、東宝スタジオを訪れたリチャード・エドランドとの対面を果たしている。このとき川北に、エドランドから65mm光学合成に関する直接的なサジェスチョンがあったのかは推測の域を出ないが、もともと東宝の特殊技術課「室内合成」部署に所属して合成技術のノウハウを会得し、この技法に対して人一倍こだわりを持つ氏だけに、エドランドの合成アプローチをDNAレベルで共有していたとて何ら不思議ではない。


 またゴジラといえば、なにより監督の大森一樹が『ダイ・ハード』に感銘を受けた映画人として挙げられるだろう。大森は同作が全米で公開された1988年、よみうりテレビで年末に放送された『CINEMAだいすき!スペシャル 1988シネマ総決算』という番組にパネラーとして出演。同番組が募った1988年の国内公開映画ベスト10の同率1位に『ダイ・ハード』を選出している(ちなみにもう一本の1位は『 ビッグ』(88))。同作の日本公開は翌年なので、本来ならば選出の対象外なのだが、大森はフライングでランク入りさせ、その理由を以下のように答えている。



『ダイ・ハード』(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 


 「夏にアメリカに行ったときにポスターだけ見て劇場に入ったら、腰を抜かしまして。かつて小津安二郎がビルマ戦線(*)で『 風と共に去りぬ』(39)を観てぶったまげ、日本に帰ってから四畳半の映画を撮り出すんですが(笑)、もうかなわないと思ったんでしょうね小津さんも。それくらい(『ダイ・ハード』は自分も)ショックを受けた作品です」


 この発言を受けて、同席していた映画評論家の塩田時敏氏が、「大森映画が変わりますね」と指摘し、スタジオに軽い笑いをもたらした。だが実際、この番組の後に大森は『ゴジラVSビオランテ』そして『ゴジラVSキングギドラ』を手がけ、かねてより祈願だったゴジラ映画への着手を現実のものとしている。そして両作とも、怪獣バトルのみならず人間アクションを見せ場とするゴジラ映画として、同シリーズのスタイルに変革を及ぼしているのだ。『風と共に去りぬ』を起因とする小津の四畳半映画エピソードは誇張だとしても、『ダイ・ハード』が自作の発奮材料になったことは冗談で片付けられないようだ。


 他にも『ダイ・ハード』で撮影監督を務めたヤン・デ・ボンが、初のハリウッド版『ゴジラ』を監督する予定だったなど、同作とゴジラとの関係性はそれだけに止まらない。残念ながらデ・ボンは予算の問題からプロジェクトを降り、『 インデペンデンス・デイ』(96)『 2012』(10)のローランド・エメリッヒが企画を引き継いで『 GODZILLA』(98)を実現化させた。が、はたしてあの巨大イグアナがゴジラといえるシロモノだったのかはさておき、『ダイ・ハード』と聞いてなんとなくゴジラを連想するのは、こうして本作の影響下にある意外なエピソードがいくつもあるからではないだろうか。


『 GODZILLA』予告


(*)大森監督は番組内でこのように発言していたが、正しくは派遣先のシンガポールで小津安二郎は『風と共に去りぬ』を観ている。


出典:

https://vantagepointinterviews.com/2018/06/17/japan-and-its-special-effects-oscar-winner-richard-edlund-on-his-interest-in-the-land-of-the-rising-sun-and-godzilla/


参考文献・資料:

George Turner.Dec.1988.American Cinematographer Magazine.Hollywood:ASC.

Adam Eisenberg.Nov.1988.Cinefex Number 36:Don Shay

特撮魂 東宝特撮奮戦記」川北紘一著(洋泉社)

日本版シネフェックス8/特集「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」(バンダイ)



文:尾崎一男(おざき・かずお)

映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。Twitter:@dolly_ozaki



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ダイ・ハード 製作30周年記念版 <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組> 

2018年05月18日発売(発売中)  2枚組 希望小売価格 ¥5,990+税 

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

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