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『ジュラシック・ワールド/炎の王国』恐竜たちを呑み込んだ、監督J・A・バヨナの世界 ※注!ネタバレ含みます。

© Universal Pictures

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』恐竜たちを呑み込んだ、監督J・A・バヨナの世界 ※注!ネタバレ含みます。

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バヨナ作品の“建築物”は、精神世界の投影図でもある



 さて、本作にはその他にもバヨナらしい最たる特徴を持ったものが登場する。それが「屋敷」という要素だ。そもそも彼の記念すべき第一作『 永遠のこどもたち』(07)も屋敷を用いたゴシック・ホラーであり、限定空間の中で最愛の息子が姿を消すという筋書きだった。また、『怪物はささやく』でも自宅がとても重要な意味を占めていたのはご覧になった方ならお分かりだろう。


 バヨナが描く建築物は、「単なるそこに横たわる舞台」としての存在にとどまらない。それらは何らかの心理的な投影図やメタファーになっているケースがほとんど。あるいはそれそのものが一つの巨大な登場人物と見なすこともできるのかもしれない。


 例えば『永遠のこどもたち』では、母親が自らの不可思議な心理状況の闇に踏み入るかのように広い屋敷内をさまよう。この「どこにどんな部屋があるのか把握しきれないほど広大な居住空間」と「底知れぬ精神世界」はどこかで繋がっている。そうやって互いをオーバラップして捉えることができるよう緻密に計算されているのである。



『ジュラシック・ワールド/炎の王国』© Universal Pictures


 では、今回の『ジュラシック・ワールド/炎の王国』はどうか。バヨナ印の「屋敷」は早くも序盤から荘厳に姿を現す。その中身は外観からはまったく想像がつかないものだ。居住空間のみならず、そこには恐竜たちの骨格標本などが並ぶ博物館のごとき展示スペースが広がっており、まるで迷宮世界。それゆえ内部を自由自在にサッと移動する少女の姿は鮮烈な印象を残す。


 光と影に満ちた屋敷内では人々の様々な思惑が交錯し、何が本心で、何が偽りなのかなかなか明らかとならない。そして、観客がどうやらこの「屋敷」には深い謎が秘められていそうだと気付いたとき、真っ先に注目すべき場所はもっともバヨナ的な空間、そう「地下」だ(『永遠のこどもたち』でもこの場所に大きな意味合いが込められていた)。案の定、少女がエレベーターのボタンを押して地下へ移動すると、そこには表向きとは全く異なる研究所が広がっている。さらにその下には、牢に繋がれた恐竜たちの姿が――――。


 ふと頭をよぎるのはクリストファー・ノーラン監督の『 インセプション』(10)という映画だ。この作品では、夢の中の世界が複層的に織り成され、さらにその最下部の深層心理に「虚無」と呼ばれる空間が広がっていた。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公は、そこに深く潜り込むことで自らの想いを成し遂げようとする。


 これと同様に、本作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では、まるで人間の深層心理へと深く潜っていくかのようにして我々は「地下」へとたどり着き、そこでこの屋敷にまつわる思いがけない謎を知る。それには人間が持つ心の闇の世界が虚無のごとく広がっているのである。


『ジュラシック・ワールド/炎の王国』予告


 そしてここまでくると、次に起こりうることは容易に想像がつくだろう。どう表向きを繕おうとも、まずはこのような深層心理から「終わりの始まり」は始動していくもの。あとは「眠っていた凶暴性が暴れ出す」という言葉と一字一句違わぬ形で、深層にあったものが目を覚まし、いつしか浮上して表層においても大混乱を巻き起こすことになるのである。


 何もこの「お屋敷」だけではない。ヒロインのクレア(ブライス・ダラス・ハワード)が勤務するオフィスは前作の重厚感、近代化あふれる物とはまるで異なり、仮住まい感ただよう雑多な感じが充満している。これは彼女の現状そのままを投影したもので、その場しのぎ、あるいは見てくれに構っていられない余裕のなさも十分に醸し出している。


 一方、主人公のオーウェン(クリス・プラット)はというと、初登場するシーンでは湖のほとりで小屋を建造している。しかもたった一人で。まだ骨組みだけしか組まれていないその状態は、まさにスケルトン。つい先ほどまで屋敷内に展示してあった恐竜の骨との呼応性もさることながら、多くの登場人物たちがなかなか本性を見せない本作において、このキャラクターだけは何ら隠しごとのない、あるいは隠しごとのできないスケルトンな性格であることが瞬時にうかがえるのである。



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