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『ウインド・リバー』脇役俳優テイラー・シェリダンが、大注目の脚本家/監督になるまで

『ウインド・リバー』脇役俳優テイラー・シェリダンが、大注目の脚本家/監督になるまで


「掟破り」を自らに課したシェリダン流の脚本術



 3部作には、物語としての展開の面でも共通するものがある。


 舞台となるエリアは“フロンティア”と呼ばれるだけにとてつもなく広大だ。にもかかわらず、シェリダンの紡ぐごくシンプルな動線は、登場人物や観客を徐々に息詰まる「閉所」へと追い込んでいき、最終的には世界の果てのような場所にて生死を賭けた決着が図られる。つまりこのクリエイターは、見渡す限り何もない無限の土地に、逃げ場のない断崖絶壁を生み出すのがとても巧みなのだ。




 『ウインド・リバー』もまた、前2作を足して割ったような世界観が織り成されている。これからご覧になる方は、「どこへ追い詰められていくのか」に気をつけながら、その通底するエッセンスを堪能してもらいたいところだ。


 そして最後に挙げたいのが「作品の構造」である。極端にいうと、彼はいつも「掟破り」に手を出すのである。


 繰り返しになるが、彼は長きにわたり、TVの世界で俳優として多くの脚本を手にし、その過程で、物語運びや作品の構造といったものをある程度のパターンとして咀嚼してきた。ただしそのお決まりの展開や構造が逆に物語の可能性を損なっているとも感じていた。そこへの抵抗心がシェリダン作品には思い切りぶちまけられている節がある。


 例えば、『 ボーダーライン』ではラストのくだりで、主人公が全く登場しなくなるという常識破りの展開が待ち受けている。また、『最後の追跡』では兄弟が銀行を襲い続ける詳細な行動理由がなかなかはっきりとは明らかにならない。これらが驚くほどナチュラルに物語へと馴染んでいるので、指摘されないとなかなか特異性に気づかないが、シェリダンによると、これらは彼なりの「掟破り」の挑戦なのだとか。



 その観点で『ウインド・リバー』を見つめると、なるほど、「挑戦」と思しき試みは今回も健在だ。映画は時として、主人公とは全く別の、被害者の若き女性の視点にスイッチする瞬間がある。それは冒頭からいきなり発動するし、後半では予想もしないタイミングでフラッシュバック映像が挟み込まれたりもする。


 駆け出しの脚本家であればプロデューサーから「これは成立していないよ」とでも言われそうなことをあえてやってみせる。そうやって一寸先を全く予想させない構造へと仕立て上げていくところに、シェリダン流の凄さがあるのだろう。


あらゆる伏線を回収しながら突き進む人生



 かくも遠く遠く迂回しながら人生を歩んできたように思えるシェリダン。だが、苦難続きの俳優生活があったからこそ、そこで学んだことを生かした脚本家としての現在がある。そして一つ一つが独立した物語でありながら、そこに自ずとトレードマークともいうべき似た構造が浮かび上がってくる作風には、かつて同じビデオテープを何十回も観ていた少年時代の記憶が大きく関わっている・・・・・・というのは考えすぎだろうか。


 すでに11月には『ボーダーライン』の続編(脚本のみ担当)『 ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の日本公開が予定され、さらに現在、彼は自らがクリエイターを務めるTVシリーズ「Yellowstone」を手がけてもいる。こちらは牧場を営む家族がとある存続の危機に直面する物語だとか。自らの生い立ちが濃厚に反映されていることは想像に難くない。



 かつてカウボーイになりなかった少年は、40年後の今、自ら描く作品世界においてその夢を叶えているのかもしれない。3部作を見事に完結させ、これからますます注目の度合いが高まっていくことは確実。脚本家として、監督として、そしていまだにチョイ役での出演を続ける俳優としても、シェリダンの今後に大いに期待したいものだ。


参考URL:

https://www.nytimes.com/2017/02/09/arts/a-respected-film-a-vivid-script-an-oscar-chance.html

https://www.fastcompany.com/3066351/write-the-movie-they-wont-make-hell-or-highwaters-taylor-sheridan

https://www.washingtonpost.com/entertainment/with-wind-river-taylor-sheridan-continues-to-smash-western-stereotypes/2017/08/04/42144de2-76c9-11e7-8f39-eeb7d3a2d304_story.html?noredirect=on&utm_term=.6ef7130a7b86

https://www.rollingstone.com/movies/movie-features/wind-river-taylor-sheridan-on-why-he-needed-to-make-this-modern-western-200864/

https://www.theguardian.com/film/2017/sep/08/taylor-sheridan-wind-river-native-american-nick-cave-giant-cat

https://www.interviewmagazine.com/film/taylor-sheridan-wind-river



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU 

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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作品情報を見る



ウインド・リバー

提供:ハピネット、KADOKAWA 配給:KADOKAWA

公式サイト: wind-river.jp

2018年7月27日 角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー

(c)2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC.  ALL RIGHTS RESERVED.


※2018年8月記事掲載時の情報です。

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