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『青空娘』若尾文子が体現するスピードと反転の跳躍力

©KADOKAWA1957

『青空娘』若尾文子が体現するスピードと反転の跳躍力

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『青空娘』あらすじ

高校卒業後、離れて暮らしていた父親を頼りに上京した有子は、継母からの仕打ちに合いながらも、恩師の「いつも心に青空を持ち明るく生きる」の言葉を胸に、行方不明の母親を探すことに。


Index


感情のスピードを記録する



 爽快なスピード、スピード、スピード。増村保造監督と若尾文子の黄金コンビによる記念すべき第1作『青空娘』(57)は、眩暈を起こすほどのスピードに溢れた大傑作だ。雲ひとつない晴れた空。海沿いの崖の上。セルフタイマーが設定されたカメラ。仲良く肩を組んで「蛍の光」を歌う3人組の女子高生。この映画は女子高生たちが記念写真を撮るシーンから始まる。女子高生たちは、自分たちの感情の移り変わりの速さ、若さのスピードを“一時停止”させ、ここに留めようとする。彼女たちはほとんど無意識に、感情という見えないものに向けてシャッターを切っていく。変わりゆくスピードに向けてシャッターを切っていく。たった一秒前の自分に“さよなら”をするようにシャッターを切っていく。このファーストシーンには、まさしく感情のスピードが記録された『青空娘』という映画の志向がよく表わされている。


 田舎の高校を卒業した有子(若尾文子)は、東京の両親の元へ向かう予定だ。しかし急死する前の祖母から、知らなかった事実を聞かされる。有子は父親の不倫の相手の子供として生まれた。しかし勘がよく頭の良い有子は、何かがおかしいことにずっと以前から気づいていたようだ。有子は生きているかどうか分からない実の母親に会いたいと願う。いつもの海沿いの崖で空に向かって「おかあさん!」と呼びかける有子の姿。有子=若尾文子の立ち方、真白いブラウスと深い紅色のスカートの美しさが際立っている。心優しき二見先生(菅原謙二)が有子に近寄り、落ち込んでいる教え子に青空の大切さを教える。「みんなの頭の上に青空は一つずつあるものなのさ。ただ、みんなが見ようとしないんだ」。



『青空娘 4K版』©KADOKAWA1957


 祖母を失った彼女は、父親を頼りに東京の家へ向かう。駅に降り立った有子は、父親の家のある青山への行き方を道行く人に尋ねる。次から次にフレームの外から入れ替わりで人が入ってくるコミカルなシーン。田舎から出てきた有子が都会の忙しなさに戸惑う姿がよく表わされているが、同時にこの入れ替わりのスピード、高速なリズムこそ、『青空娘』の肝である。人や物や声が次から次へとフレームに飛び込んでくるスピード。その思いがけなさ。脚本を手掛けた白坂依志夫は、増村保造のテンポの早さでは70分くらいの作品になってしまうと、あわてて原稿を書き足したという。


 また、この作品のスピードは危険と隣り合わせでもある。父親の屋敷に到着した有子が玄関の前に立つと、フレームの外から有子を目掛けて野球のボールが投げこまれる。悪戯のレベルではない速球であることにびっくりする。幸いボールは有子に当たらなかったが、危険な悪戯をするちびっこの弘志(岩垂幸彦)を有子は叱責する。有子はただの善良な女性ではない。明確な意思の強さと頭の良さ、勘の良さがある。それは弘志や家事手伝いの八重(ミヤコ蝶々)との関係性の築き方で明らかになっていく。




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