2018.08.31
韓国社会のアメリカナイズ
だが、以上の大枠から『サニー 永遠の仲間たち』の説明につなげる作業は、ちょっと複雑だ。というのも、総体的に見てチョン・ドゥファンは政治的な「悪役」であることには間違いないのだが、しかし元々はパク・チョンヒ大統領の強権政治をぶっ潰して政権を獲得したため(この一連の流れは「ソウルの春」と呼ばれる)、チョン・ドゥファン政権は“新しい時代”の印象を国民に与えるため、様々な「自由化」を行なったのである(ソウルオリンピックの誘致もそのひとつ)。
例えば中学・高校の制服自由化。『サニー 永遠の仲間たち』の女子高生たちは私服で登校している。そして国際化。日米との連携を強めて経済の活性化に力を入れた。このチョン・ドファン政権の副産物である「陽」の側面を、素直に享受しているのが『サニー 永遠の仲間たち』のヒロインたちなのだ。彼女たちは「386世代の妹たち」の世代。大学生のお兄さんたちのようには政治的にスレていない(良くも悪くも)。だからこの時代の副産物である急速にグローバル化、あるいはアメリカナイズされたポップ・カルチャーに、ある種無邪気に影響を受けている。
『サニー 永遠の仲間たち』予告
例えば音楽は主に洋楽。主人公たちが組んだ校内ダンスグループが自分たちのテーマとして選んだ楽曲「サニー」はドイツのディスコバンド、Boney.Mのディスコチューンだし、校内放送ではシンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」(当時を知る世代の日本人には旧邦題「ハイスクールはダンステリア」でおなじみ)を流す。日本の番組で言うと『ベストヒットUSA』などで紹介される全米トップ40なんかに親しみつつ、ナイキの靴やスポーツバッグを愛用している。韓国社会にかつてないティーンが出現した時代と言えるだろう。
この時代を知るサブテキストとしても注目したいのが、9月8日から日本公開となる韓国映画『1987、ある闘いの真実』(2017年/監督:キム・ウヒョン)だ。劇中、大学に入学したばかりのヨニという女子が登場するのだが、彼女は最初『サニー 永遠の仲間たち』の女子高生寄りのノンポリなキャラクターで、むしろ政治運動には懐疑的な立場を取っている。しかし真剣にデモに参加している先輩の男子学生との出会いから、一気に政治的に目覚めていくのだ。