2018.08.31
「1990年代半ばのティーンたち」を描く理由
この現象は、日本の若者たちが「ウチらのもんで充分まかなえます」と文化的に宣言したような“Jカルチャー”の隆盛を差すものであり、ある意味「内向き」の時代の到来とも言える。そして韓国社会のエポックを主軸にした『サニー 永遠の仲間たち』を、日本のコンテクストに移し替えた『SUNNY 強い気持ち・強い愛』が、現在アラフォー世代になった「1990年代半ばのティーンたち」を描くことの根拠になっているのだ。
おそらくこの「1990年代半ばのティーンたち」の世界を描くに当たって、大根仁監督(1968年生まれ)と川村元気プロデューサー(1979年生まれ)の世代差も有効に働いたはずだ。大根監督は韓国版の女子高生と同じ世代で、日本版のヒロインたちよりは兄貴分に当たる。対して川村プロデューサーは日本版の女子高生と同じ世代。このふたりが組むことで、韓国版と日本版、両サイドから互いに遠近法で捉えることができる。また「1990年代半ば」に関しても、ふたりの当時の印象のズレ――認識の多層性が、そのまま映画の中にレイヤーとして組み込まれる。だから単一の世界像にはなっていなくて、すごく豊かな映画空間、いろんな入口のある「1990年代半ば」の風景が広がっているのだ。
例えばヒロインたちのお兄さん世代も、初期ベイシングエイプの服を着てCISCOのレコ袋を持っているDJの大学生のようなクラブ系もいれば、1995年に放送開始して社会現象となったアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に熱狂しているニートもいるといった具合。どちらとも1990年代を代表・象徴する重要なユースカルチャーであることは言うまでもない。
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(C)2018「SUNNY」製作委員会
ちょうど大根監督と川村プロデューサーの中間世代に位置する筆者(1971年生まれ)などは、実のところ当時の昔話だけで三日三晩語り尽くせそうなほどいろいろと懐かしいネタが詰まった作品だ。しかしこれは単なるノスタルジー映画ではない。自分のキラキラした「過去」を改めて見つめ直して、「いま」を取り戻す物語。だから最初は厳しい現実に晒されていた大人の女性のキャスト陣がどんどん輝いてくる。その過程で我々も元気がもらえる。日々の閉塞感や困難を気合いで吹き飛ばす伸びやかな楽天性――そんなリアルファンタジー効果が一番のポイントだ。
小沢健二「強い気持ち・強い愛」
小沢健二の1995年の名曲「強い気持ち・強い愛」(作曲は筒美京平先生)が感動的に使われるところは、韓国版からの最高のアレンジ。「過去」と「いま」が手と手を取り合ってダンスする、完全無欠の祝祭感があなたを待っている!
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』
2018年8月31日 全国東宝系にてロードショー
(C)2018「SUNNY」製作委員会
公式サイト: http://sunny-movie.jp/
※2018年8月記事掲載時の情報です。