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『バレリーナ:The World of John Wick』ゲーム空間としての都市、サバイバーとしての暗殺者

®, TM & © 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『バレリーナ:The World of John Wick』ゲーム空間としての都市、サバイバーとしての暗殺者

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公共空間の戦場化、即興的なサバイバル・アクション



 レン・ワイズマン監督は演出にあたって、ある意外な作品を参照したことを明言している。シルヴェスター・スタローン主演の映画『ランボー』(82)だ。ベトナム戦争帰還兵である主人公ジョン・ランボーが、小さな町で警察と対立し、追われる身となりながらも、自らの生存と自由を守ろうとする物語。


 「これは、15歳の僕が大好きだった映画に少しオマージュを捧げる機会だったんだ」(*3)と語るレン・ワイズマンは、ランボーが迫りくる敵から逃れる過程で、日常的アイテムを即座に武器へと転化させる能力に着目したことも強調している。木の枝やナイフで削った矢先を組み合わせた、手作りの弓矢。ロープや釘、倒木などを使った即席のトラップ。単なる身体能力だけではなく、状況に応じた創造的サバイバル能力こそが、ジョン・ランボーの強さの源泉なのである。


 イヴもまた、知恵と即興に基づいて事態を打開していく。アイススケート靴を凶器に用いたり、帯やベルトを拘束具として利用したり、ペンや金属製の小物を投げて注意を逸らしたり。手持ちの武器がない状況でも、彼女は優れた知性と即応力を駆使して生き残っていく。この映画は、『ジョン・ウィック』シリーズのトンマナと『ランボー』の精神を引き継いだサバイバル・アクションなのだ。


 しかもクライマックスに用意されているのは、主宰(ガブリエル・バーン)と呼ばれる人物が指導者を務める、街全体が暗殺者ばかりという異常空間。サバイバル・アクションとして、おそらくこれ以上の舞台は望めないだろう。老若男女に関わらず、視界に入る者は全て敵なのだから。



『バレリーナ:The World of John Wick』®, TM & © 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.


 もともと『ジョン・ウィック』シリーズには、一般市民が裏社会の存在に気づいていないか、あるいはあえてガン無視しているという、特異な設定が施されていた。地下鉄、図書館、美術館などの日常の場が裏社会の戦場になるが、秩序や暗黙のルールは決して崩れない。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(23)に至っては、ナイトクラブで凄まじい銃撃戦が行われているにも関わらず、オーディエンスはそんなことお構いなしに踊り狂っていた。日常と非日常の境界が意図的に曖昧化されているのだ。


 明らかにこのシリーズには、何の気兼ねもなく公共空間で殺し合いをするというゲーム的感性が組み込まれている。『バレリーナ』における「街全体が暗殺教団の殺し屋ばかり」という設定は、それを極限まで最大化したものだ。これまでニューヨーク、パリ、ベルリンで局所的に勃発していた戦いは、公共空間全体を戦場化することで、一般市民の存在や秩序の維持すらも一掃されている。


 『ジョン・ウィック』で描かれる世界は、現実とは似て非なるヴァーチャル空間だ。戦闘はゲーム的感性に基づく遊戯的行為として描かれ、それゆえに観客はバイオレンスを純粋な娯楽として楽しむことができる。たとえジョン・ウィックが登場しなくても、このシリーズはスピンオフの可能性を無限に拡張していくだろう。『バレリーナ』は、その潜在力をはっきりと示した作品だ。


(*1)https://www.syfy.com/syfy-wire/john-wick-chapter-4-producer-ballerina-spinoff

(*2)(*3)https://www.indiewire.com/features/interviews/ballerina-director-len-wiseman-interview-ana-de-armas-1235129005/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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作品情報を見る



『バレリーナ:The World of John Wick』

8月22日(金)全国公開

配給:キノフィルムズ

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