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『バレリーナ:The World of John Wick』ゲーム空間としての都市、サバイバーとしての暗殺者

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『バレリーナ:The World of John Wick』ゲーム空間としての都市、サバイバーとしての暗殺者

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リアリズムから美学へ。ジョン・ウィックとイヴの対照性



 幼い頃に父を暴力的に奪われた少女イヴ・マカロは、ニューヨーク・コンチネンタルの支配人ウィンストン(イアン・マクシェーン)の導きで、バレリーナと暗殺者を養成する組織「ルスカ・ロマ」に迎えられる。やがて彼女はバレエと暗殺術を兼ね備えた暗殺者へと成長。組織の制止を振り切って、単身父の仇の暗殺教団に立ち向かう。そこに現れたのは、あのジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)だった…というのが、『バレリーナ』のおおまかなあらすじ。スピンオフなのに、我らがキアヌ・リーブスがガッツリ出演してくれる。


 オリジナル・サーガの主人公と、スピンオフの主人公との交錯。2人のキャラクターはあまりにも好対照だ。シリーズ第1作に登場したときから、ジョン・ウィックはすでにババヤガやブギーマンの異名をもつ、伝説の殺し屋だった。一方のイヴは、まだまだ修行中の未熟な新米アサシン。


 さらに、ジョン・ウィックは裏社会から身を引こうとするにも関わらず、過去に引き戻されてしまう悲劇の主人公だが、イヴは表社会と裏社会の境界を踏み越え、自らの意志で血と掟の共同体に参入しようとする。プロデューサーのエリカ・リーも、「ジョン・ウィックは常に外に出ようとしているけど、イヴというキャラクターは少し違う。彼女は中に入ろうとしていると思うんです」(*1)と語っている。


 このキャラクターの差異は、アクション表現にも如実に表れている。これまでシリーズを統括してきたチャド・スタエルスキに代わって、本作の監督を務めたのはレン・ワイズマン。『ダイ・ハード4.0』(07)や『トータル・リコール』(12)など、続編・リメイク作品でその手腕を発揮してきた人物だ。彼は偉大なIPの伝統を受け継ぎつつ、「ジョン・ウィックのような戦闘スタイルを再現したくはなかった。イヴに独自のエネルギーと声を持たせたかったんだ」(*2)とも表明している。



『バレリーナ:The World of John Wick』®, TM & © 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.


 そもそも『ジョン・ウィック』シリーズのアクション・シーンが、従来のハリウッド映画とは一線を画している。アクションを短いカットで細かく繋ぐのではなく、一連の動きをそのまま見せるロングテイク(長回し)を多用。戦闘の途中でカットは入らず、銃撃からナイフ戦までシームレスに展開する。


 引きの構図が多いのも特徴的だ。カメラを寄せることでパンチが当たったように錯覚させることはせず、全身が映る距離感で、ダンスや舞踏のように身体の動きを見せていく。『ボーン』シリーズに顕著だった、シェイキーカム(揺れるカメラ)や過剰な早切り編集も徹底的に回避している。


 血生臭い世界なのに、照明や色彩設計が極端にスタイリッシュなのも、このシリーズの持ち味(ネオンブルーや赤のコントラスト、バロック音楽など)。戦闘シーンはどこか儀式的で、単なる殺し合いではなく、掟に沿った決闘のような趣がある。


 このトンマナを踏まえたうえで、『バレリーナ』で描かれるイヴの戦いは、より肉体芸術としてのアクションに近づいている。ジョン・ウィックの場合は、近接戦闘と銃撃戦を有機的に組み合わせ、効率と必然性を徹底的に追求したリアリズムの追求だったが、バレリーナとしての素養を持つ彼女の動きは、効率よりも美学、リアリズムよりも優雅さが優先されているのだ。





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