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『バレリーナ:The World of John Wick』ゲーム空間としての都市、サバイバーとしての暗殺者

®, TM & © 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『バレリーナ:The World of John Wick』ゲーム空間としての都市、サバイバーとしての暗殺者

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『バレリーナ:The World of John Wick』あらすじ

孤児を集めて暗殺者とバレリーナを養成するロシア系犯罪組織:ルスカ・ロマ。裏社会に轟く伝説の殺し屋:ジョン・ウィックを生み出した組織で殺しのテクニックを磨いたイヴは、幼い頃に殺された父親の復讐に立ち上がる。組織に背き、1000年の長きにわたって続く暗殺教団の存在にたどり着くイヴ。しかし、彼女の前に、あの伝説の殺し屋が現れる…。果たしてジョン・ウィックは敵か味方か?最強の殺し屋と対峙したイヴの選択とは?


Index


スピンオフを受容する『ジョン・ウィック』の特異な世界観



 トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル』シリーズ、マット・デイモンの『ボーン』シリーズ、リーアム・ニーソンの『96時間』シリーズ、デンゼル・ワシントン主演の『イコライザー』シリーズ、ベン・アフレックの『 ザ・コンサルタント』シリーズ。


 これらのシリーズは、いずれも主演俳優の存在感とスター性が物語の中核であり、キャラクターがブランドそのものになっている。そうなると、どんな大ヒット映画シリーズであろうと、制作サイドはスピンオフを作りづらい。別キャラを立てても、観客が同じブランドと認識できなくなるからだ。


 ジェレミー・レナーが主演した『ボーン・レガシー』(12)や、クライヴ・スタンデンが主演したテレビドラマの『96時間 ザ・シリーズ』(17-18)は、興行的(視聴率的)にも批評的にも大成功とは言い難いものだった。主役交代は、ブランド毀損のリスクが大きい。もちろん、トム・クルーズやデンゼル・ワシントンくらいのトップ俳優になると、脚本や企画の最終承認に強く関与するため、自分が出演しないスピンオフにはGOサインを出さないという事情もあるだろう。いずれにせよ、スピンオフは茨の道なのである。


 だが、『ジョン・ウィック』シリーズだけは事情が異なる。確かにこの映画も、キアヌ・リーブス演じる伝説的な殺し屋ジョン・ウィックが物語の中核だった。だがそれ以上に、作品をかたちづくる世界観があまりにも特異。舞台は現代のニューヨークやローマ、パリだが、殺し屋が暗躍する裏社会設定が謎すぎるのだ。



『バレリーナ:The World of John Wick』®, TM & © 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.


 暗殺依頼のオペレーターは、なぜか昔の電話交換手スタイル。服装・髪型・小道具までクラシック仕様だ。暗号のやり取りは最新デジタル技術を使いつつ、書類を気送管(エアシューター)で送る場面もあったりして、ところどころでアナログなテクノロジーが頻出する。


 裏社会の頂点に君臨する主席連合(High Table)は、まるでヨーロッパの貴族階級や騎士団のようだ。服装はクラシックなスーツ、燕尾服、礼装に近いドレスコードが基本。武器や拷問具すら美術品のように飾られている。組織の掟や儀礼も中世ヨーロッパ的。血の誓約、聖具としてのメダリオン、封蝋など、封建制度を思わせるアイテムがやたら登場する。


 コンチネンタル・コインと呼ばれる独自の通貨も流通している。ビットコインやイーサリアムなどのデジタル通貨ではなく、リアル金貨だ(誰がどこで鋳造しているんだ?)。ホテル、武器庫、仕立て屋、医療に至るまで暗殺者専用の経済圏が成立。ドルやユーロには換えられないだろうから、現実的にはそうとう不便なはずだが、逆にそれが秘匿性と儀式性を高めている。


 レトロなオペレーション、ヨーロッパ貴族風な悪の支配層、独立した裏社会インフラ。ここまで「現実に似て非なる世界」の設定がガッチリ固められていれば、別俳優でスピンオフが作られてもブランドが毀損されることはない。すでにこのシリーズは、『ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から』(23)というスピンオフ・ドラマが放送されているが、アナ・デ・アルマスが主演を務める劇場映画『バレリーナ:The World of John Wick』(25)(※以下『バレリーナ』)もまた、作られるべくして作られたのである。





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