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『ゴッドファーザー』大傑作への道程で、積み重なった偶然とは?

Copyright (C) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (C) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『ゴッドファーザー』大傑作への道程で、積み重なった偶然とは?

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傑作誕生をめぐって監督と制作責任者が対立!?



 もちろんコッポラの才能を証明するエピソードも多い。最初は渋々ながら監督を引き受けたコッポラは何度かクビにされる危機に見舞われているのだが、最大のピンチが編集担当だったアラム・アヴァキアンのサボタージュだった。コッポラよりも業界の古株だったアヴァキアンは、興行面ではまだ実績のない若手監督だったコッポラから、監督の座を奪い取ろうと「絵は素晴らしいが編集で繋がらない」と告発したのである。


 慌てた制作部長のロバート・エヴァンズは、撮影済みのフィルムを取り寄せてコッポラの天才を確信し、アヴァキアンや連座する者を更迭した。陰謀渦巻く映画の裏にも、さまざまな陰謀や駆け引きが進行していたのだ。


 ところがコッポラを擁護したエヴァンズと、コッポラ側の言い分が真っ向からぶつかっているのが、2時間55分という上映時間をめぐる攻防についてだ。



『ゴッドファーザー』Copyright (C) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (C) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.   


 前述のエヴァンズの自伝によると、コッポラはまず2時間6分のバージョンを作り(ハーラン・リーボ著『ザ・ゴッドファーザー』によると2時間20分)、エヴァンズは短すぎると却下して「傑作はどこへ行った? 予告編ではなく本編を見せろ!」とコッポラに迫ったという。プロデューサーのアルバート・ラディによると、コッポラの手でまず2時間55分のバージョンが作られたが、興行面でのマイナスを嫌ったスタジオ重役から短くしろと命じられ、コッポラが短いバージョンに再編集。しかしエヴァンズが長いバージョンを強く支持し、最終的に2時間55分バージョンが採用されたという。


 いずれの言い分が正しいかは正直藪の中だが、コッポラが短いバージョンを提出し、エヴァンズが長いバージョンに固執したことは両者ともに認めている。もしエヴァンズが妥協していれば、『ゴッドファーザー』は短いバージョンしか公開されず、現在にいたるまで傑作として語り継がれることはなかったかも知れないのだ。


 またエヴァンズは、コッポラが最初に採用しようとしていたラストシーンを削除させている。それはダイアン・キートン演じるマイケルの妻ケイが教会でマイケルのために祈る場面で、原作小説のラストに準じている。しかしエヴァンズはこのシーンを蛇足と考えて、マイケルが名実共に次のドン=ゴッドファーザーとなり、ケイの目の前で扉が閉められるシーンをもって終幕とするように要求した。コッポラは編集に口出しされることにうんざりしていたが、大した変更ではなかろうとこの件に関してはエヴァンズに妥協したという。。


 どっちのラストが良かったのかは、現行のバージョンしか観ていないので判断することは難しい。しかし『ゴッドファーザー』の冷たい戦慄を感じさせるラストの余韻は、現行のバージョンでしか味わうことはできなかった。またすべてを知ったケイがマイケルの魂の救済を祈るシーンが入っていたら、『PARTⅡ』『PARTⅢ』でのマイケルとケイの関係も見え方が変わっていただろう。


 これらのことは、あくまでもいくつかの例に過ぎない。しかし明白なのは、映画の傑作が生まれる要因はかくも不安定であり、映画の神様がほほ笑むがごとき奇跡がなせる業だということ。『ゴッドファーザー』の続編を望むパラマウントに対してコッポラは100%のコントロール権を手に入れて『PARTⅡ』に臨むのだが、一作目で同じ権力をコッポラが有していれば、『ゴッドファーザー』は随分印象が異なる作品になっていたはずなのである。それがどれほどの傑作だったかは、神のみぞ知る、と言うほかない。


参考:

ゴッドファーザー』マリオ・プーヅォ著 一ノ瀬直二訳、早川書房 

The Godfather Papers and Other Confessions』マリオ・プーヅォ著、Putnam

ザ・ゴッドファーザー』ハーラン・リーボ著、河原一久+鈴木勉監修、ソニー・マガジンズ

くたばれ!ハリウッド』ロバート・エヴァンズ著、柴田京子訳、文藝春秋




文: 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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作品情報を見る



『ゴッドファーザー PART I <デジタル・リストア版>』

Blu-ray:2,381円+税/DVD:1,429円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

※2018年9月の情報です。

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