2018.10.11
LA娯楽産業の光と闇に迫る傑作群
『アンダー・ザ・シルバーレイク』の主人公サムは、陰謀と暗号にハマっているオタクだ。近所に越してきた美女サラ(ライリー・キーオ)とある晩仲良くなりかけるが、その翌日彼女は失踪してしまう。一夜にして空っぽになったサラの部屋、壁に残された奇妙な記号、クローゼットに残る最後の荷物を持ち去った女性。サムはわずかな手がかりを頼りに、サラの行方を探すうち、街の裏側にひそむ陰謀の存在を確信するようになる。
サムが暮らすのは、ロサンゼルス市シルバーレイク地区。地名はこのエリアにあるシルバーレイク貯水池にちなむ。ハリウッドにほど近く、アーティストやクリエイターが多く住み、おしゃれな街として知られる。にわか素人探偵のサムによる調査も、このシルバーレイクを拠点に展開。大物映画プロデューサーの謎めいた死、街で起きた事件との関係が噂されるカルト集団、人気バンド「イエスとドラキュラの花嫁たち」のヒット曲に隠されたメッセージが、驚愕の真相へとサムを導いてゆく。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』© 2017 Under the LL Sea, LLC
大手の映画スタジオと音楽レーベルが集まるロサンゼルスを舞台に、娯楽産業に身を置く人々の華やかな世界と、陰謀や犯罪、不可解な出来事が渦巻く闇を対比的に描くサスペンスは、これまでにも数多く作られてきた。ブライアン・デ・パルマ監督の『ボディ・ダブル』(84)、コーエン兄弟が監督と脚本を手がけた『バートン・フィンク』(91)、ロバート・アルトマン監督の『ザ・プレイヤー』(92)、デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(01)、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(14)――。名匠、鬼才と呼ばれるフィルムメーカーたちの傑作群だけでもこんなにある。そして、ミッチェルの『アンダー・ザ・シルバーレイク』もまた、こうした「LA奇譚」の系譜に連なる野心作なのだ。