2018.10.11
陰謀、カルト、隠されたメッセージ
大物プロデューサーが、女性3人とともに車ごと焼かれた遺体で見つかったとの報道に、サムは街で陰謀が進行しているという思いに一層とらわれていく。現実の世界でも、政治家やスターなどの著名人が早すぎる死を迎えると、陰謀論めいた噂がまことしやかに語られるのはよくある傾向だ。たとえば、事故死や自殺というのは偽装であり、本当は何らかの大きな勢力によって消されたのだというパターン。あるいは、死んだのは替え玉(ダブル)で、本人は遠く離れた場所で人知れず別の人生を送っているというパターンもある。
個人の死が多くの陰謀論を生んだ最も有名な例はおそらく、1963年に起きたケネディ大統領暗殺事件だろう。単独犯とされたオズワルドが逮捕2日後に殺害されたこともあり、暗殺を仕組んだのがマフィアだという説や、政府内の対抗勢力がFBIやCIAなどの政府機関に実行させたとの説をはじめ、さまざまな陰謀論が語られた。オリバー・ストーン監督の『JFK』(91)は、地方検事ジム・ギャリソンが著書で主張した独自の陰謀説に基づいて映画化された作品だ。
ケネディつながりでは、大統領在職中に不倫関係にあったマリリン・モンローも、1962年の36歳での死が「睡眠薬の大量服用による自殺」ではなく、何者かによる謀殺という説が語られてきた。『アンダー・ザ・シルバーレイク』の中でも、サラが大好きな映画としてモンロー出演作『百万長者と結婚する方法』(53)が引用されているほか、サラがプールで泳ぐ場面がモンローの遺作『女房は生きていた』(62)のオマージュになっている。同作は、洋上の飛行機事故で死んだと思われていたヒロインが実際は孤島で生き延びていたという内容。モンローが体調不良により降板させられたため完成しなかったが、2001年放映のドキュメンタリー番組の中で37分に編集されたバージョンが初公開された。
スターの死とカルト集団というつながりで、思い出される悲劇がある。ロマン・ポランスキー監督の妻で女優のシャロン・テートが、友人ら3人とともにロサンゼルスの自宅で惨殺された1969年の事件だ。実行犯は、カルト教祖のチャールズ・マンソンが率いた集団「マンソン・ファミリー」のメンバー3人。マンソン自身も共謀罪と殺人罪で有罪判決を受けたが、彼がビートルズのハードなロックナンバー『ヘルター・スケルター』に殺人の啓示を受けたと語っていた事実も大きな波紋を呼んだ。なお、クエンティン・タランティーノ監督がシャロン・テート惨殺事件を背景にハリウッド映画界を描く『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が現在撮影中で、2019年7月に英米で公開予定となっている。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』© 2017 Under the LL Sea, LLC
1960年代に絶大な人気を誇ったビートルズにも都市伝説めいた話がいくつかあり、最も有名なのは「ポール死亡説」だろう。メインボーカルの一人でベース担当のポール・マッカートニーが実は1966年に死亡しており、それ以降はそっくりな外見の別人がポールを演じているという噂が67~69年頃に広まった。ファンが無数の手がかりを挙げたが、中でもよく知られている例として、『ヘルター・スケルター』と同じく「ホワイトアルバム」の収録曲『レボリューション9』を逆再生すると死者に呼びかける声が聞こえる、というものがある。『アンダー・ザ・シルバーレイク』の中で、サムが「イエスとドラキュラの花嫁たち」のレコードを逆回転させて隠されたメッセージを探す場面は、おそらくこの有名な話を下敷きにしたはずだ。