1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ハウス・オブ・ザ・デビル
  4. 『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”
『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”

© 2008 MPI MEDIA GROUP ALL RIGHTS RESERVED.

『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”

PAGES


「80年代風」ではなく「80年代そのもの」を描く



 サタニック・パニックという狂気を孕んだ時代を描くにあたって、タイ・ウェスト監督が試みたのは、観客を当時の陰鬱な空気そのものへと放り込む、ストイックなまでのリアリズムの追求だ。


 画面はざらついた16mmフィルムの粗い粒子に包まれ、静かな郊外の通りを歩くサマンサの姿に被さるのは、黒いドロップシャドウが印象的な山吹色のタイトルロゴ。この特徴的なフォントは、1970年代から80年代初頭のホラー映画やグラインドハウス作品で頻繁に用いられたタイポグラフィを、確信犯的に踏襲したものだ。


 彼女がウォークマンのヘッドホンを耳にあてがった瞬間に流れるのは、80年代テイスト全開のニューウェイブ・サウンドだし、不気味な屋敷の中で孤独を紛らわせるように踊り歩くシーンで使用されるのは、ザ・フィクスの「One Thing Leads to Another」。絶妙に軽薄で絶妙にダサい選曲が、当時のポップカルチャーの空気を完璧に封じ込めている。


 さらにウェスト監督は、当時の卒業アルバムを徹底的にリサーチし、ハイウエストのジーンズや髪型、キッチンのリノリウムの床や色褪せた壁紙に至るまで、本物の80年代の生活空間を構築した。MTV的なスピーディ編集を拒絶し、あえて恐怖を急がず、ゆったりとしたペースを採用している点も、当時のホラー映画への深い理解と敬意の表れといえるだろう。



『ハウス・オブ・ザ・デビル』© 2008 MPI MEDIA GROUP ALL RIGHTS RESERVED.


 確かにゼロ年代以降、クエンティン・タランティーノやロバート・ロドリゲス、あるいはロブ・ゾンビといった筋金入りのオタク系フィルムメーカーたちによって、『グラインドハウス』(07)や『マーダー・ライド・ショー』(03)に代表されるような、当時のB級映画の質感を再現したレトロタッチの作品が数多く作られてきた。だが、タイ・ウェスト監督のスタンスは、彼らの手法とは明確に一線を画している。彼は、過去のジャンル映画を模倣するオマージュを作ったわけではない。


 「この映画は基本的に1980年代の文化的現象であるサタニック・パニックについてのものだ。だから、それを非常に正確に描写したかったし、ふざけたりパロディにしたりはしたくなかった。そうしてしまうと、観客がキャラクターに感情移入できなくなるからね」(*1)


 彼にとっての80年代とは、消費されるべきノスタルジーの記号ではなく、サタニック・パニックという社会の暗部が確かに存在した、生々しい現実そのものだったのだろう。ただ個人的には、監督が意図したかどうかは別として、過去のホラー映画へのオマージュを随所に感じてしまうのも事実。


 たとえばサマンサが潔癖症で、部屋散らかし放題で朝から彼氏とセックスに耽るルームメイトに神経をすり減らすという設定は、ロマン・ポランスキー監督の『反撥』(65)を強く彷彿とさせるし、主演のジョセリン・ドナヒューは、『悪魔の棲む家』に出演していたマーゴット・キダーにちょっと似ている(似ているよね?)。こうしたジャンル映画特有の匂いがふとした瞬間に漂ってくるのも、本作の隠れた魅力と言えるだろう。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ハウス・オブ・ザ・デビル
  4. 『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”