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『Pearl パール』ペイント・イット・レッド!ペイント・イット・ブラッド!
『Pearl パール』あらすじ
1918年、テキサス。
スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。
ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。
生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが……。
Index
圧倒的なミア・ゴス
滑稽であればあるほど痛々しく哀しい。笑っているのか?泣いているのか?あるいは叫んでいるのか?熊手を振り下ろす残忍な殺人シーンのときでさえ、パール(ミア・ゴス)にはどこか哀しさがある。殺人が残忍であればあるほど、パールは弱さを露呈させる。テキサスの農場における“囚われの女”パール。いつも命令口調で事細かに注文をつけてくる母親との会話は、コミュニケーションとしてまったく成立していない。表向きは自分の置かれた状況への従順さを装いつつ、彼女の内側では尋常ならざる反抗心が燃えたぎっている。
ペイント・イット・レッド!ペイント・イット・ブラッド!赤いドレスを身に纏ったパール=ミア・ゴスは、世界のすべてを赤く染める。思惑通りに進まない事案に直面する度に、パールは喜怒哀楽のすべてが渾然一体となったような感情を爆発させる。俳優志望のパールにとって感情の爆発は“パフォーマンス”と結びついているのかもしれない。なぜならパールにとって世界とつながる方法は“パフォーマンス”しかないのだから。彼女は自身の“パフォーマンス”によって世界中の人たちに愛されたいと願っている。しかしパールは感情をコントロールすることができない。オンとオフの切り替えができない。そして物事はまったく彼女の思い通りには進まない。おそらくパールは何者かに人生を邪魔されていると感じている。
『Pearl パール』© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.
『Pearl パール』(22)のミア・ゴスの演技は圧倒的だ。パールというヒロインの高熱に浮かされたような行動は、サイレント映画の偉大な喜劇役者たちが持っていた滑稽さに通じるものがある。ミア・ゴスの演じるパールは、真剣な滑稽さで人生の悲哀を滲ませている。パール、そっちに行っちゃダメだ!気が付けばヒロインに感情移入している自分がいる。
1979年を舞台とした前作『X エックス』(22)で、『ディープ・スロート』(72)のリンダ・ラヴレースのようなポルノスターを想起させるミア・ゴスも素晴らしかったが、半世紀以上前の1918年に舞台を移した本作のミア・ゴスは輪をかけて素晴らしい。映画の中のコーラスダンサーに憧れるパール。本作は納屋の扉が開くショットで始まる。このファーストショットは、ミア・ゴス=パールのパフォーマンスの“開演”の合図を高らかに告げている。ミア・ゴスは本作で初めて脚本も手掛けている。