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『X エックス』驚きの配役によって実現した哲学的スラッシャー映画 ※注!ネタバレ含みます。

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『X エックス』驚きの配役によって実現した哲学的スラッシャー映画 ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『X エックス』あらすじ

1979年、テキサス。女優のマキシーンとそのマネージャーで敏腕プロデューサーのウェイン、ブロンド女優のボビー・リンとベトナム帰還兵で俳優のジャクソン、そして自主映画監督の学生RJと、その彼女で録音担当の学生ロレインの3組のカップルは、映画撮影のために借りた田舎の農場へ向かう。彼らが撮影する映画のタイトルは「農場の娘たち」。この映画でドル箱を狙おうと、6人の野心はむきだしだ。そんな彼らを農場で待ち受けたのは、みすぼらしい老人のハワード。彼は一行を宿泊場所として提供した納屋へ案内する。一方、マキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見つめるハワードの妻である老婆パールと目があってしまう。3組のカップルが踏み入れたのは、史上最高齢の殺人夫婦が棲む家だった……。


Index


単なるホラー映画ではない



 テキサスの田舎にポルノ映画の撮影にやってきた若者たち。彼らがロケ地に選んだ牧場には年老いた夫婦が住んでいた。実は2人は史上最高齢の殺人鬼だったのだ…。『X エックス』はその設定だけを読むと、あからさまに『悪魔のいけにえ』(74)の道具立てを拝借した凡庸なスラッシャー映画なのではないか、という一抹の不安がよぎる。しかし作品を観れば、それは杞憂であることがすぐに分かるだろう。


 予定調和と予測不能感を巧みにミックスした本作は、さながら暗闇を進むジェットコースターのようだ。行き着く先には一体どんな光景が待ちかまえているのか?観客は不安と期待がないまぜになったレールの上をラストに向かって疾走する。そんな稀有な感覚を提供してくれる要因は、その巧みな構成と演出、そして驚きの配役にある。


『X エックス』予告


 本作は、前半と後半でがらりとトーンが変わる。前半は過去の名作ホラーの引用を散りばめながら静かなタッチで不穏な空気をじっくり醸成する。先述した『悪魔のいけにえ』や『悪魔の沼』(77)といったトビー・フーパーの名作スラッシャーから、『悪魔の棲む家』(74)や『回転』(61)といったオカルティックな作品の影響も感じさせる。それらに共通するのは70年代以前に作られた映画であるという点だ。監督のタイ・ウェストは筆者のインタビューにこう語った。


 〈私は70年代のホラー映画が大好きですが、ホラーに限らず当時のアメリカ映画すべてのジャンルのファンなんです。だから全体を通して70年代のアメリカ映画のトーンを意識しました。私は映画作りそのものも大好きで、この映画自体が映画製作へのラブレターだと考えています。だから単なるホラー映画ではないんです〉


 ウェスト監督は、1979年という時代設定も含め、本作を単なるホラーではなく「映画製作へのラブレター」だと位置づけている。主人公たちはポルノ映画を自主製作しており、物語の前半は主にその描写に費やされる。ホラーでポルノ映画の撮影隊という設定が登場する時、その製作風景はなおざりに描写され、スタッフや出演者も軽薄な人間として描かれそうなものである。しかし本作は、6人の男女がポルノ映画に情熱を注ぎこむ様を丹念に描きこむ。このことに監督の重要なメッセージが隠されている。



『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.


 主人公のマキシーンは場末のバーで踊っていたストリッパーだが、恋人の誘いでポルノに主演することになった。しかし彼女にはポルノに出演することへの劣等感や卑屈な思いは感じられない。「自分の人生をみずからの意思と選択で切り開く」。そうした強固な思いが彼女の言動に感じられるからだ。さらに当初はポルノを見下していた録音担当のロレインは現場の熱気に感銘を受け「自分も女優として濡れ場に出演したい」と言い出し、監督であるボーイフレンドを当惑させる。監督は恋人であるロレインの濡れ場を自らが撮影するはめになり、深く傷つくことになる。


 ここで描かれているのは、映画に情熱を注ぐ若者たちの青春群像である。この「青春」の姿を克明に描くことが、後半への展開に大きな意味を持つことになる。





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