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『X エックス』驚きの配役によって実現した哲学的スラッシャー映画 ※注!ネタバレ含みます。
殺人鬼と主人公はなぜ一人二役なのか
主人公のマキシーンと老殺人鬼のパールは実はミア・ゴスが一人二役で演じている。その意図は先述した本作のテーマ性からも明らかだ。殺人鬼のパールは、自己決定を避け続けたことでたどりつくマキシーンのもう一つの姿なのである。つまり、主人公の人生の選択の結果をパラレルワールド的に表現し、もう一人の自分が殺人鬼となって自身に襲い掛かるという構造になっているのだ。だからこそ、主人公と年老いた殺人鬼は同じ役者が演じなければならなかった。
本作と似た構造を持つ映画で思い出されるのは北野武監督の『TAKESHIS'』(05)だ。大スターになった役者「たけし」と、いつまでたっても売れずにいる「たけし」。2人の人生が交錯し、どちらもビートたけしが演じる。「成功した自分の姿は実は売れなかった自分が観ている夢なのではないか」。北野武はそんな思いから『TAKESHIS'』を構想したという。全く違うアプローチでありながら2つの作品は、「人生」に内在する根源的な恐怖を、もう一人の自分―ドッペルゲンガーを用いて描いた映画とも言えるだろう。
『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
『X エックス』はホラーでありながら、人生に対する哲学的な考察を促すテーマを有することで非常にユニークな作品となった。そこには監督のこんな意図もあった。
〈観客のほとんどはマキシーンとパールが一人二役だったことを、エンドクレジットを見て初めて気付くでしょう。それを知ったことで映画館からの帰り道、演技やシーンについて自分の中で反芻するんです。観客には今までのホラー映画にはないテーマを考えながら家路についてもらいたかった〉
スラッシャー映画は劇場で楽しんだら、きれいさっぱり忘れられることも一つの美点かも知れない。しかし、ジャンル映画だからこそ予想外の奥行きを持たせ、観客の心に残り続ける作品にできる。そんな思いでタイ・ウェスト監督はホラー映画を再構築し、さらなる高みを目指したに違いない。だから、本作は監督にとって、とびきり熱烈な「映画へのラブレター」なのだ。
文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
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『X エックス』
7月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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