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『Pearl パール』ペイント・イット・レッド!ペイント・イット・ブラッド!

© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

『Pearl パール』ペイント・イット・レッド!ペイント・イット・ブラッド!

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未知なる可能性(Xファクター)



 扉の向こうに広がるカラフルな世界。『Pearl パール』は『オズの魔法使』(39)を下敷きにしている。しかし『オズの魔法使』のドロシーは仲間の手を借りることができたが、パールはすべてに間に合わない。パールが期待していたような魔法はテキサスの風景のどこにもない。ドロシーのように頼れる仲間もいない。パールは、すべてが手遅れになっていくのに耐えることができない。タイ・ウェストは『オズの魔法使』というテクニカラーのファンタジーをハリウッドの悪夢として再文脈化していく。笑顔で自転車を漕ぐパールのシーンに悪夢の前兆が宿っている。


 一人でいるときのパールは独り言の多い空想の世界の住人だ。パールは映画館に行くことで、この苦しい現実を直視しないよう自分を守っている。パールの通う映画館の入り口にはセダ・バラ主演の『クレオパトラ』(1917)のポスターが飾られている。前作『X エックス』にも登場した湖にいるワニの名前は“セダ”。セダ・バラは映画会社によってプロフィールを捏造されていたセックスシンボルだ。このことからも、パールがハリウッドの作り出す“イメージ”に夢中なことが伝わってくる。パールはハリウッドの作り出す愉快な魔法、そして悪夢の末端にいる「未知なる可能性(Xファクター)」の一人なのだ。



『Pearl パール』© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.


 パールは映画館の映写技師と仲を深めていく。ヨーロッパの魅力的な話をするボヘミアンな彼にパールは惹かれていく。映写技師がパールにブルー・フィルムを見せるシーンが興味深い。1915年に撮られたアメリカ最古のポルノ映画の一本と言われる『ア・フリー・ライド』が上映される(1923年制作説もある)。偽名の作者・出演者による過激なポルノ映画。このエピソードは前作における70年代の自主ポルノ映画の制作と符合している。ハリウッドの検閲の外で制作された作品であることが面白い。どこかに埋もれ、後世に知られることもなかったかもしれない「未知なる可能性」の残骸。


 『X エックス』から続くこのシリーズには、未知なる可能性が本当に未知のまま終わってしまうことへの怖れや悲しみがある。前作で「私はセックスシンボル!」と鏡台の前で叫んだマキシーン(ミア・ゴス)と銀幕のスターに憧れるパールのイメージが、まるでひび割れた鏡の前で共鳴を起こしているかのようだ。マキシーンとパールは、未知の可能性のまま人生が終わってしまうことを震えるほど怖れている。世界から無償の愛を受ける日が来ることを願っている。二人には“舞台”で輝くことへの強烈な執着がある。自分の可能性を信じることへの切実さがある。




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