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『MaXXXine マキシーン』ビバ、マキシーン! “悲劇のポルノ化”に中指を立てる無二のファイナルガール
2025.06.10
『MaXXXine マキシーン』あらすじ
1985年、ハリウッド。巨大な撮影スタジオに現れたブロンドの女、その名はマキシーン。ポルノ界で人気を極めた彼女は、新作ホラー映画『ピューリタンⅡ』のオーディションに参加していた。“本物のスター"になるために。その頃のLAは、連日連夜ニュースで報道される連続殺人鬼「ナイト・ストーカー」の恐怖に包まれていた・・・。一方マキシーンの周りでは、ヒルズのパーティーに呼ばれた女優仲間が次々と殺される怪事件が起きる。騒動の中、オーディションで主演の座を射止め、スターダムへ上りはじめたマキシーンの前に、6年前、マキシーンの身に起こった猟奇的殺人事件のトラウマ知る謎の存在「何者」かが近づく・・・・・・。
Index
“悲劇のポルノ化”に中指を立てる
『MaXXXine マキシーン』(24)の舞台となる1985年夏のロサンゼルスは、記録的な猛暑に見舞われていたという。悪魔崇拝者による児童虐待の噂が社会的な混乱を招いた“サタニック・パニック”。スラッシャー・ムービーやヘヴィメタル・ミュージックが及ぼす社会への悪影響を怖れる人たちによるデモ活動。『MaXXXine マキシーン』の冒頭には、公聴会に招かれたグラムバンド、トゥイステッド・シスターのボーカリストであるディー・スナイダーが、ヘヴィメタルを悪とする“検閲”に抗議する映像が挿入されている。そして無差別連続殺人犯であり、メディアに“ナイトストーカー”と名付けられたリチャード・ラミレスの不気味な影(余談だが、ショーン・ペンは刑務所の中でリチャード・ラミレスと手紙を交わしたことがあり、当時ショーン・ペンと結婚していたマドンナは、面会の際に“ナイトストーカー”とすれ違っている)。
ドキュメンタリー映画『封印殺人映画』(06)の原著にあたるスラッシャー・ムービーの研究書「Going to Pieces: The Rise and Fall of the Slasher Film」によると、1980年に公開され大ヒットを記録した『13日の金曜日』以降、スラッシャー・ムービーは商業的な隆盛を迎え、1985年には既に過渡期にあったという。スラッシャー・ムービー等に抗議する人たちが訴えていた社会への影響とはまったく別の文脈で、同時代的なシンクロニシティとして“ナイトストーカー”の猟奇性、残虐性は、このジャンルの隆盛に偶然に同期していた。さらに“ナイトストーカー”の残虐性は、フィクションの世界を追い越そうとしていた。ここにはスラッシャー・ムービーの起源とされているフランスの残酷演劇グラン・ギニョール劇が、ナチスの台頭、残虐性により過渡期を迎えたこととの奇妙な類似がある。グラン・ギニョール劇は、ナチスによる現実の残虐性に敗北した。そして『MaXXXine マキシーン』は、私たちの大切なフィクションの世界を現実=“ナイトストーカー”に追い越されないよう、真剣勝負を挑む映画だ。
『MaXXXine マキシーン』©2024 Starmaker Rights LLC. All Rights Reserved.
『X エックス』(22)で描かれた1979年の“テキサス・ポルノ俳優虐殺事件”の生存者=ファイナルガールであるマキシーン・ミンクス(ミア・ゴス)は、ハードコア・ポルノ女優として名の知れた存在になっていたが、若さがもてはやされるポルノ業界に限界を感じていた。33歳になったマキシーンは、ハリウッド映画のオーディションを受ける。オーディションのシーンといえば、『X エックス』の前日譚である『Pearl パール』(22)でもっとも強烈な印象を残すシーンの一つだった。ガレージのようなオーディション会場。マキシーンが開いた鉄扉の向こう側から靴音を響かせて歩いてくるとき、このシリーズのファンの胸には様々な記憶が去来することだろう。マキシーンは意識・無意識に関わらず、ここで重大な選択をしている。ハリウッド映画に出演したかったパールの人生と、呪われた因果関係が結ばれる。しかしテクニカラーの世界における“負け犬”だったパールと違い、本作は1985年に生きるマキシーンの物語だ。この映画は“大衆は負け犬が好き”という考え方や“悲劇のポルノ化”にハッキリと中指を立てている。反逆である。だからこそマキシーン=ミア・ゴスは無二の存在になっていく。