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『MaXXXine マキシーン』ビバ、マキシーン! “悲劇のポルノ化”に中指を立てる無二のファイナルガール

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『MaXXXine マキシーン』ビバ、マキシーン! “悲劇のポルノ化”に中指を立てる無二のファイナルガール

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ファイナルガール・ゴーズ・トゥ・ハリウッド



 ファイナルガール・ゴーズ・トゥ・ハリウッド。マキシーンがオーディションを受ける『ピューリタンII』と題された架空の低予算映画は、80年代に商業的な隆盛を極めたスラッシャー・ムービーの系譜にあると思われる作品の続編だ。A級映画の芸術的なアイデアでB級映画を撮ろうとする野心的な映画監督エリザベス(エリザベス・デビッキ)。スラッシャー・ムービーに限らず、当時はまだ少なかった女性映画監督による続編。エリザベスにはマキシーンとは違った種類の反逆性がある。名の知れたポルノスターを商業映画に抜擢することは、映画業界に対する彼女のパンクス的な反逆のアティテュードをよく表わしている。タイ・ウェスト監督は、映画監督役を女性にすることでエリザベスとマキシーンの間に生まれる創作上の共闘(友情ではない)、業界的慣習へのアンチテーゼを浮かび上がらせている。



『MaXXXine マキシーン』©2024 Starmaker Rights LLC. All Rights Reserved.


 新時代のスクリーム・クイーン候補である“マキシーン・ファッキン・ミンクス”は、ハードコア・ポルノ女優からハリウッド・スターへの転身の機会を得る。しかしマキシーンは、“テキサス・ポルノ俳優虐殺事件”の現場にいた過去に追われる。せっかく手に入れたチャンスを握り潰そうとする者がいる。マキシーンを追いかける刑事ジョン・ラバットをケヴィン・ベーコンが演じている。ケヴィン・ベーコンは『13日の金曜日』の第1作目で犠牲者となる若者の一人を演じていた。「Going to Pieces: The Rise and Fall of the Slasher Film」において、『13日の金曜日』のケヴィン・ベーコンの死に方は、“特殊効果における新時代の幕開け”として、歴史的な位置付けをされている。「ベッドに横たわりマリファナを吸うジャック(ケヴィン・ベーコン)の首を矢が射抜いた瞬間から、ホラー映画は二度と同じにならなかった」(*)。『MaXXXine マキシーン』において、ジョン・ラバット=ケヴィン・ベーコンがどのような運命をたどるか、是非スクリーンで目撃してほしい。


 『MaXXXine マキシーン』という映画には、スラッシャー・ムービーの歴史の亡霊が憑依している。マキシーンだけでなく、この映画自体が過去の映像の記憶に追いかけられている。マキシーンがアルフレッド・ヒッチコック監督作『サイコ』(60)の惨劇の舞台となった家のセットを紹介されるシーンは象徴的だ。“スラッシャー・ムービーの先駆け”として位置づけられている『サイコ』は、『X エックス』においても言及されている。そしてマキシーンがここを訪れる数年前にこの作品の続編が撮られた。クエンティン・タランティーノがオリジナル『サイコ』より好きだと語る『サイコ2』(83)のことである。アンソニー・パーキンスが演じるノーマン・ベイツが過去の呪われた事件から再起を図る作品だ(再評価されるべき傑作だ)。再起の物語、自分の過去に追われる物語、何より“続編”という点で『サイコ2』と『MaXXXine マキシーン』は強く響き合っている。ノーマン・ベイツが家の窓際に自分を支配していた母親の亡霊を何度も見るように、マキシーンは窓際に立つ亡霊の姿を見る。しかしミア・ゴスによるポーカーフェイスの演技、そして印象的な赤いアイメイクは、マキシーンを次世代の“ファイナルガール”として提示することに成功している。マキシーンというキャラクターは、旧来のスクリーム・クイーン像のずっと先に視線を見据えている。




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