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『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”

© 2008 MPI MEDIA GROUP ALL RIGHTS RESERVED.

『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”

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忍び寄る狂気と、ピザの罠



 『ハウス・オブ・ザ・デビル』の魅力は、巧妙に組み立てられたスクリプトにある。何気ない会話やセリフの端々に、身の毛もよだつような伏線やダブルミーニングが幾重にも張り巡らされているのだ。


 例えば、アパートの大家が語る「私は直感を信じる方なの」というセリフ。この「直感」というワードは、映画全体を貫く残酷な皮肉として機能している。なぜなら、サマンサは屋敷に到着した直後から嫌な「予感」を抱いていたにもかかわらず、お金欲しさにそれをガン無視してしまうからだ。


 キャラクターの言葉遣いのギャップや独特なスラングも、不気味さを構成する重要な要素となっている。親友のメーガンは、目的地を「in the middle of Jabib=ど田舎」という東海岸のローカルスラングで表現したり、運転手として駆り出された自分を「monkey with a cigarette=タバコを持ったサル」と自嘲したりと、当時の若者らしい現代的で軽薄な言葉を使用する。


 対照的に雇い主のウルマンは、「どうぞ、楽にしていてください。すぐに戻りますから」と語る際に、「in two shakes of a lamb's tail=子羊の尻尾が2回振れる間に」という、現代では使われないイディオムを用いる(すぐに、という意味)。この表現だけで、彼らが閉鎖的なコミュニティで生きてきた存在であることを物語っているのだ。



『ハウス・オブ・ザ・デビル』© 2008 MPI MEDIA GROUP ALL RIGHTS RESERVED.


 やがて、クライマックスで本性を現したウルマンは、恐怖に震えるサマンサにこう言い放つ。「He's given the sign. He's chosen you. It's your destiny to accept him.=彼が印を与えた。彼が君を選んだ。彼を受け入れるのが君の運命だ」。ここで使われる「彼」や「運命」という単語は、本来キリスト教における神の導きや恩寵を意味する。悪魔崇拝者である彼らが神聖なボキャブラリーを使うことで、カルト教団の異常な信仰心と狂気がより一層際立つ。彼らは本気で、自分たちが神聖な儀式を行っていると信じて疑わないのだ。


 演出面においても、タイ・ウェスト監督は安易なジャンプスケアには頼らない。我々の身近にある日常的なアイテムを、じわじわと不気味なものに変貌させていく。その最たる象徴がピザだ。メーガンがやたら不味そうにピザを食べている場面は、明らかにこの後に待ち受ける惨劇を暗示したものだ。


 不気味な屋敷に到着した後、ウルマンは「大学生はピザが好きだろう」と、わざわざデリバリーの番号を残していく。サマンサにとって、ピザは心細い夜を紛らわすための、身近な食べ物だったはず。しかし、そのピザには睡眠薬が仕込まれていて、サマンサの意識を奪う恐ろしい罠となる。ありふれたジャンクフードが、呪われた儀式への入り口へとすり替わるのだ。そういえば、丸いピザが放射状に切り分けられたその形は、悪魔の召喚陣である逆五芒星にも似ている。


 極めつけは、惨劇の後に訪れる病院のラストシーンに仕掛けられたセリフ。意識を取り戻したサマンサに対し、看護師が優しく語りかける。


 「大丈夫、良くなるわよ。2人ともね」


 親友のメーガンがすでに無惨に殺されている以上、この2人とは、サマンサと彼女の胎内に宿った悪魔の子を意味している。『ローズマリーの赤ちゃん』(68)を彷彿とさせる、悲劇的な結末。タイ・ウェストは、血みどろの視覚的ショックに頼るのではなく、たった一言のセリフだけで観客を恐怖のどん底へと突き落とすのだ。





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