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『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”

© 2008 MPI MEDIA GROUP ALL RIGHTS RESERVED.

『ハウス・オブ・ザ・デビル』極限まで研ぎ澄まされた“静かなる悪夢”

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画未見の方はご注意ください。


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善良な隣人が悪魔を崇拝する時代



 『X エックス』(22)、『Pearl パール』(22)、『MaXXXine マキシーン』(24)の三部作で世界を席巻し、現代ホラー界を牽引するタイ・ウェスト監督。彼の作家性の原点にして、17年越しに日本公開を果たす幻の傑作が『ハウス・オブ・ザ・デビル』(09)である。


 舞台は1983年のアメリカ。大学2年生のサマンサ(ジョセリン・ドナヒュー)は、素行の悪いルームメイトとの寮生活に限界を感じて新居を見つけるが、大家に支払う敷金がどうしても工面できずにいた。深刻な金欠に悩む彼女は、キャンパスの掲示板で見つけたベビーシッター募集のチラシに目を留め、藁にもすがる思いで応募する。


 親友のメーガン(グレタ・ガーウィグ)に車を出してもらい、指定された町外れの深い森に囲まれた屋敷へと向かうサマンサ。不気味な洋館で彼女を出迎えた雇い主のウルマン(トム・ヌーナン)は、世話をする対象が赤ん坊ではなく、2階から一歩も出ない年老いた義母であることを明かす。募集内容との違いに強い不信感を抱き、一度は仕事を断ろうとするサマンサだったが、ウルマン氏から400ドルという破格の報酬を提示され、葛藤の末に引き受けてしまう…。


 「ベビーシッターが人里離れた不気味な館で、得体の知れない恐怖に巻き込まれる」というシンプルなあらすじを聞いただけで、これが『ハロウィン』(78)や『夕暮れにベルが鳴る』(79)といった、いわゆるベビーシッター・スリラーの系譜であることは明白だろう。隔絶された異常空間という点では、『ヘルハウス』(73)や『悪魔の棲む家』(79)など、オカルト・ハウス映画の定型にもピタリと当てはまる。



『ハウス・オブ・ザ・デビル』© 2008 MPI MEDIA GROUP ALL RIGHTS RESERVED.


 そしてこの映画では、1983年という時代設定が極めて重要な意味を持つ。冒頭、黒バックにドーンと浮かび上がるのが、「1980年代、70%以上のアメリカの成人が、虐待的な悪魔崇拝カルトの存在を信じていた」という何やら不穏なテロップ。これは単に映画を盛り上げるためのハッタリではなく、実際に当時のアメリカにはサタニック・パニックと呼ばれる社会的ヒステリーが存在していた。この実態については、ドキュメンタリー映画『サタンがおまえを待っている』(23)に詳しい。


 同作で克明に描かれている通り、当時のアメリカ社会では「どこにでもいる善良な隣人が、実は裏で悪魔崇拝の儀式を行い、子供たちを誘拐して生贄にしているのではないか」という根拠のない妄想が蔓延していた。メディアやトーク番組がこぞってこの不安を煽り立て、ヘヴィメタル音楽やTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)までもが悪魔崇拝と結びつけられるなど、全米が目に見えない悪魔へのパラノイアに陥っていたのである。


 タイ・ウェスト監督は、単なるホラー映画のギミックとしてではなく、パラノイアの時代の空気そのものを、スクリーン上に生々しく蘇らせようとしたのだ。





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