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『プライベート・ケース』ジョディ・フォスターが深層心理の扉を開け放つ、フレンチ・ミステリー

©LES FILMS VELVET ‐ BUENOS HAIR ‐ FRANCE 3 CINEMA

『プライベート・ケース』ジョディ・フォスターが深層心理の扉を開け放つ、フレンチ・ミステリー

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催眠療法によって紐解かれる前世の記憶…?



 さらに、亡きポーラを偲ぶ会でさりげなく登場する「dybbuk(ディブク)」というキーワードも鮮烈に響く。これはユダヤ教文化において、憑依する霊魂を意味するらしい。それも自殺などで輪廻転生できない魂が、生きた人間に憑依してその体をつき動かそうとするものだとか。


 本作は間違っても霊魂や心霊について描いた物語ではないが、少なくともポーラの死は、リリアンに大きな転機と動機付けを与える。まるで死者の魂に突き動かされるように、リリアンは内なる螺旋階段を昇ったり降りたりしながら、心に芽生えた“何か”の原因を探ろうとするのだ。


 意表をつくのは、無意識に涙がこぼれる症状を改善すべく、彼女が催眠療法のセラピーを受けるくだり。施術中の意識内には赤い階段が現れ、それをゆっくりと降りて扉を開けると、まるでタイムスリップしたかのように第二次大戦下のオーケストラピットの光景が広がる。


 どうやら前世でのリリアンとポーラは、ともにオーケストラに所属する男女で、恋人同士だったらしい。そして会場ではナチスの息のかかった者が踏み込み、今まさにリリアンを含むユダヤ人たちを連行しようとしている…。


 かくなるビジョンを垣間見たリリアンは、なお一層の使命感を持って、ポーラの死の原因を探り始める。もう随分前に別れた夫(ダニエル・オートゥイユがとにかく可愛らしく、コミカルに演じる)の力を借りながら。



『プライベート・ケース』©LES FILMS VELVET ‐ BUENOS HAIR ‐ FRANCE 3 CINEMA


遠ざけてきたもの、見えなくなっているもの



 この映画は時折、情報があまりに渋滞しすぎて、一体何を言わんとしているのか分からなくなる。描かれているのは異邦人の内面世界なのか、ユダヤ人のアイデンティティか、前世から運命付けられた宿命か、それとも深層心理に吹き溜まる自分でも制御不能な領域か。


 ひとつ言えるのは、人間は極めて不可解な生き物だということ。例えば、リリアンは患者のセラピーの記録用にミニディスクを使い続けている。周囲から「もう誰もそんなもの使っていないよ」と指摘されてもお構いなし。だが録音手段に凝り固まる一方で、悩みを吐露する患者の“生の声”に自分が真剣に向き合えていない現状には全く気づけていない。


 きっと彼女はこれまでの人生において、誰にも頼らず、あらゆる場面で自分なりのやりかたを信じ、貫いて生きてきた人なのだろう。それはおそらく彼女に多くの結果をもたらし、また同時に多くの機会から自身を遠ざけもしてきたはずだ。


 そんな彼女が、還暦過ぎの今ふと立ち止まり、「これまで見えてなかったもの」「遠ざけてきたもの」を見つめ直そうとしている─。ディブクがいざなう先には、かくなる人間の新たな成長の一面が待ち受けているのかもしれない。




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