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『ファントム・スレッド』これがポール・トーマス・アンダーソン流、デザイナーとモデルの関係性
2018.10.31
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PTAが描く主人公の系譜
ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)の映画に根底するのは、尋常じゃない熱量で何ものかに囚われている人間たちへの観察の視線である。同時に彼が描く主人公は飛びぬけてファニーであったり、憎らしいほどカリスマであったり、ときに孤高の天才であったりもする。
『ファントム・スレッド』の主人公、レイノルズ・ウッドコックもまた、PTAの主人公の系譜に連なるにふさわしい人物である。20世紀初頭のアメリカ西部を舞台に、石油王へと成り上がっていく男を描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の主演俳優、ダニエル・デイ・ルイスを再び主人公に迎え、『ファントム・スレッド』で描いたのは1950年代のイギリス、ロンドンのファッション界。レイノルズは上流階級の女性たちを彩るドレスや社交服を手掛けるサロンの主であり、デザイナーであり、ドレスメイカーである。顧客の服作りに命を捧げる彼は初老に差し掛かる年齢だが家庭を持たず、共同経営者である美しい姉と二人で細心の注意をもってサロンを守ってきた。顧客は貴族や王族の女性たち。
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レイノルズは、彼女たちの美を強調する究極のドレスづくりに神経をとがらせ、その邪魔となる者は容赦なく切り捨てる。映画の冒頭では、女房面をするようになった美しい愛人を厄介払いするところから始まる。
次の服のモデルに選ばれるのは誰なのか。