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『ファントム・スレッド』PTAとダニエル・デイ=ルイスで作り上げたデザイナー、レイノルズ・ウッドコックとは
2018.11.08
恐ろしく徹底される、役へのアプローチ
PTAはまた、このアンダーソン&シェパードで若き日々、修行を積んだのち、イギリスを代表するデザイナーとなったアレキサンダー・マックイーン(19069-2010)のパーソナリティもレイノルズのなかに忍ばせている。マックイーンは熟練の仕立ての技術を持ちながら、デザインそのものは革新的で時にロックでパンクで挑発的で、そして美しかったが、40歳の若さで急逝。キャリアの真っただ中での死は様々な憶測を呼んだが、検視の後、彼の精神科医はBBCのインタビューに対して、「マックイーンは間違いなく作品作りにプレッシャーを感じていた」「デザイナーとしての仕事は諸刃の剣で、彼が人生で唯一達成感を感じていたことでもあり、ショーが終わると彼は大抵落ち込み、孤立を感じていた」と述べている。これは映画の中で見せるレイノルズの仕事への高揚とプレッシャーによる沈鬱とまさに一致する。そして興味深いことに、そのレイノルズの創作へのストイックなまでの姿勢は、演じるデイ=ルイスの役へのアプローチとも合致する。
『ファントム・スレッド』(C) 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.
この作品でデイ・ルイスは服作りを一から学び、ニューヨーク・シティ・バレエ団の衣装監督であったマーク・ハッペルの元で洋裁を学んだ。裁縫の基本から立体裁断、寸法の取り方など、デザイナーに必要とされる基礎を身に着けた。また、VOUGEの名物編集長であるアナ・ウィンターの名前を配する、ニューヨーク、メトロポリタン美術館内のアナ・ウィンター・コスチューム・センターに通い、歴代の天才デザイナーたちが手掛けたドレスを徹底的に観察したともいう。
最終的には独力でイブニングドレスを作れるほどの腕前になったというから、恐ろしいまでの俳優魂、いや、クリエイターの執念。そして、またも燃え尽きたのか、本作で俳優引退を発表した。その心をまた、PTAが変えさせられるのか。それは映画史においても興味深い未来でもある。