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『ファントム・スレッド』PTAとダニエル・デイ=ルイスで作り上げたデザイナー、レイノルズ・ウッドコックとは

(C) 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.

『ファントム・スレッド』PTAとダニエル・デイ=ルイスで作り上げたデザイナー、レイノルズ・ウッドコックとは

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PTAが企んだ極上の仕立て



 PTAは映画の前半で、地位のあるレイノルズが、教養も美貌もさほど持たないアルマを発見し、美しい女性へと生まれ変わらせる魔法使いのように描く。だが、彼はエゴイスティックな一面を持ち、神経質で、自分の顧客と自分のドレスしか興味のない男でもある。中盤からは、アルマがなんとかして、レイノルズの関心を得ようと、試行錯誤していく様を見せていく。そして後半、彼女は初老に差し掛かっていたレイノルズの体調不良を献身的に看病することでついに妻の座を手に入れる。だが、その体調不良にはアルマのある意図と計算があり、見る人によっては、一人の男が気まぐれで選んだ女に絡み取られ、まるでジョロウグモの巣にかかって、丸ごと食べられてしまうオスの破滅する姿と重ねて見るかもしれない。




 だが、こういう見方もあり得る。レイノルズのデザインは前出のチャールズ・ジェームス同様、女性の美をコルセットの拘束によって作り出す復古主義のもの。映画の時代背景は1950年代。ファッション史においては戦後、女性の服が劇的に変わった勢いのある年代で、1947年にクリスチャン・ディオールが戦中のミリタリー調のモードを一新する、女性の柔らかい体の曲線を生かしたニュールックを発表し、一世風靡。50年代になると、バレンシアガが樽のようなボリュームのある「バレル・ライン(バレル:樽)」を発表、ディオールも競って、オーバルライン、Aライン、Hラインとウェストを締め付けない、開放したラインを次々に展開していく。


 ファッションのこの流れを知る私たち現代人から見ると、レイノルズの重くて、きつくて、一人での着脱が難しいデザインは、おそらく、この映画のラスト以降、バレンシアガやディオールの軽やかなデザインの登場で駆逐されていく運命にあるとしか思えない。


 おそらく、映画の中でレイノルズを持て囃していた上質の顧客たちも、早々に、彼から去っていくだろう。だが、そんな彼の元に、彼の美しいドレスを心から崇拝し、彼のドレスの美しさで自尊心と自信を得て強くなった女性が一人残された。いわばこれぞ究極の愛の形とも、そしてクリエイションの極意ともいえる。レイノルズのアルマへの愛の形も、一筋縄ではいかないところが、まさにPTAの極上の仕立てと言えるだろう。



文: 金原由佳(きんばら・ゆか)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。ロングインタビュー・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』、『アクターズ・ファイル永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワネットワーク)などがある。



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『ファントム・スレッド』 ブルーレイ+DVDセット

発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

発売日:11月7日 価格:3,990円+税

公式サイト:http://www.nbcuni.co.jp/movie/sp/phantomthread/

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