役作りに悩むトム・ハンクスに監督が提示した秘策とは?
12歳の心を持ったまま、ある日突然、大人に急成長してしまった少年、ジョッシュのちぐはぐな言動が、周囲の大人たちを面白がらせ、時に混乱させていくという物語。この役を自然に演じられるのは、今にして思えばトム・ハンクス以外にはあり得ない。しかし、ハンクス自身は作品の成否を分ける役の攻略に苦慮していた。そこで、マーシャルは一計を案じる。
テスト撮影で少年時代のジョッシュを演じる子役のデビッド・モスコウに、大人になったジョッシュを演じさせ、本番ではハンクスがそれを巧みに真似する様子がカメラに収められていったのだ。こうして、大人が子供の振りをする時に往々にして生じる不自然さは払拭され、少年が体だけ大人に成長するというファンタジーが絵空事ではなく成立する。
『ビッグ』© Photofest / Getty Images
マーシャルはまた、ハンクス、モスコウ、それにジョッシュの親友、ビリーを演じるジャレッド・ラシュトンを同じ部屋に閉じ込め、室内で思いっきりおもちゃをぶつけ合うゲームに興じざることで、ハンクスとモウコウを心身共に合体させる試みにも挑戦。その一方で、ハンクスと玩具会社の社長を演じるロバート・ロッジアが巨大ピアノの鍵盤の上に乗っかり、横移動しながらを曲を演奏するシーンを撮影するために、エンジニアのレモ・サラケーニに全長5メートルもある巨大ピアノの製作を指示。撮影場所であるニューヨークの玩具店、FAOシュワルツに陳列してあった実物のピアノの横幅は2メートルしかなく、大人2人で"Heart and Soul"を演奏するには狭すぎたからだ。こうして、ハンクスとロッジアはスタンバイしていたスタントに頼ることなく、映画の白眉である"巨大鍵盤横移動ダンス"を自分たちで演じきってみせた。