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『ゲット・アウト』米コメディ界の異端児は、いかにしてネタバレNGの最恐ホラーを作り上げたか?
『ゲット・アウト』あらすじ
ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、ある週末に白人の彼女ローズの実家へ招待される。若干の不安とは裏腹に、過剰なまでの歓迎を受けるものの、黒人の使用人がいることに妙な違和感を覚える。その夜、庭を猛スピードで走り去る管理人と窓ガラスに映る自分の姿をじっと見つめる家政婦を目撃し、動揺するクリス。翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに多くの友人が集まるが、何故か白人ばかりで気が滅入ってしまう。そんななか、どこか古風な黒人の若者を発見し、思わず携帯で撮影すると、フラッシュが焚かれた瞬間、彼は鼻から血を流しながら急に豹変し、「出ていけ!」と襲い掛かってくる。“何かがおかしい”と感じたクリスは、ローズと一緒に実家から出ようするが・・・。
Index
笑いと恐怖。紙一重の感情を巧みに操る魔術師
「笑い」と「恐怖」は紙一重だ。怖すぎて思わず笑ってしまうこともあれば、逆に笑いすぎて怖くなってしまうこともある。私にとって腹を抱えるほど可笑しいことが、他の人には身の毛がよだつほど恐ろしく感じられるケースもあるだろう。さらに言えば、『 リング』や『 呪怨』といった日本製ホラーだって、編集のタイミングが1フレームでも違っていたら、周到に張り巡らされてきた恐怖の糸はすっかり笑いへ転じてしまっていたはずだ。
笑いを生み出すのは、数多ある創作の中で最も難しい行為とも言われる。笑いのツボや感覚が人によって大きく異なる中で、その最大公約数を狙うのか、それとも特定の層にポイントを絞って勝負するのか。それを仕掛ける方法や状況、タイミングはいつなのか。笑いの神様は、全ての計算がピタリとハマった時にだけ、微笑みながら降りてくるもの。また、こうした才能を自在に操ることができるのなら、作り手は笑いのみならず、観客の恐怖さえも司ることができるのかもしれない。
『ゲット・アウト』(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved
具体的な例で言うと、日本でも笑いとバイオレンスを描き続ける北野武の姿がおのずと想起されるし、落語家や講談師がその語り口によって観客の心理を絶妙な状況へと誘う様にも同様の境地を感じずにいられない。そしてアフリカ系アメリカ人のコメディアン、ジョーダン・ピールも、それらの才能を見事に駆使することができる逸材なのだろう。彼が初監督ホラー『ゲット・アウト』で我々を連れ出すのは、そういった“最恐の場所”である。