ホラー仕掛け人、ジェイソン・ブラムの“低予算の映画術”とは?『ゲット・アウト』

ホラー仕掛け人、ジェイソン・ブラムの“低予算の映画術”とは?『ゲット・アウト』

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低予算で大ヒット、名作ホラーの背後に“この男”あり!



 ホラー映画は、低予算でも高い利益を上げることができるジャンルだ。そもそも、怖がらせることがメインとなれば、高額ギャラの俳優を起用する必要はないし、浮いた資金を、メイクや美術、あるいは特殊技術に回すこともできる。その仕掛けやアイディアがうまく大衆の心に突き刺されば、誰もがのし上がれる。メジャー初挑戦の新人監督や、インディペンデント系の監督、あるいは一度は「もう終わった」と烙印を押されたベテラン監督がヒットを飛ばすことだって夢ではない。


 当然ながら、ジョーダン・ピール監督が放つ『ゲット・アウト』も、近年稀に見る野心的な挑戦だった。これまでコメディアンとして知られてきた彼がホラー映画に挑むのも大きな挑戦ならば、恐怖描写の中に社会風刺的な目線を取り入れる内容もまた挑戦だ。そして、これが見事に大当たり。製作費450万ドルの本作は、世界で2億5300万ドルを稼ぎ出し、ホラー / スリラー映画界に見事なまでの爪痕を残す結果に。作品としての評価はもちろん、ビジネスとしても大成功を収めたのだ。




 この大仕事をプロデュースしたのが、ジェイソン・ブラムという人物である。彼が率いる制作会社ブラムハウス・プロダクションズといえば、今やホラーどころか映画界全体において台風の目と言える存在。ジョーダンの携えた『ゲット・アウト』を企画段階で「面白い!」と評価した先見の明もさることながら、具体的な映画作りの面でも我々がこのブラムの仕事術から学ぶものは大きい。


意外な初プロデュース作、そして『パラノーマル』との出会い



 この男、ジェイソン・ブラムについて深く知るには、二つの作品を探訪する必要がある。


 まずは、ブラムが大学卒業後に初めてプロデュースした作品『彼女と僕のいた場所』(95・未公開)。これは巧みなコメディを生み出すことで知られるノア・バームバックの初監督作でもある。実は彼ら、ニューヨーク州のヴァッサー大学時代のルームメイトでもあり、その頃からの腐れ縁なのか、彼らのキャンパスライフを題材にした本作において、一度きりのコラボを果たしているのだ。


 この時、ブラムは資金集めに苦慮した挙句、家族ぐるみの付き合いのあったスティーヴ・マーティンに脚本を読んでもらい、彼からの推薦文をゲット。その文面を添えた脚本のコピーをハリウッド中の関係者に送りつけて注目を浴びることで、なんとか予算獲得にこぎつけたのだとか。この頃からすでに、人脈の広さと行動の大胆さが際立っていたことがうかがえる。


 だが、彼が決定的なブレイクスルーを迎えるには、もう一本の作品との出会いを待たねばならない。それがインディペンデント・ホラー『パラノーマル・アクティビティ』(07)である。


 この作品は、もともとオーレン・ペリ監督が自宅を使って撮り上げた自主制作映画だった。ビデオカメラで撮影し、登場する俳優も全くの無名。映画を彩るトリックも最小限のもの。まずはこの「初号版」を映画祭で上映したり、業界内にサンプル配布しながら配給権やリメイク権の売り込みを開始するのだが、これをいち早く視聴し、ダイヤの原石であるのを見抜いた者こそ、ジェイソン・ブラムだった。


 彼はすぐさま行動を起こす。フットワーク軽くオーレン・ペリに接近し、一緒にこの「初号版」を再編集して商品価値を高めようと提案。彼はペリを激励しながら作品をブラッシュアップさせ、有名映画祭へ応募したり、ハリウッドの首脳陣に送るなどして、根気強く可能性の糸を垂らし続ける。


 しばらくして、これに食いついたのが、スピルバーグ率いるドリームワークス。初めはリメイクするつもりでいたようだが、テスト試写会で観客の反応をチェックしてみるとオリジナルのままでも十分な反応が得られ、これは下手にリメイクするよりも素材を丸ごと生かした方が良さそうだという結論に至る(ただし、ラストシーンだけはスピルバーグのアドバイスに従って変更されたらしい)。


 こうして、ペリとブラムが二人三脚で底辺から這い上がってきた本作は、いざ劇場公開を迎えると「社会現象」とも言われるほどの大ヒットを記録。制作費1万5千ドルながら、最終的に全世界で2億ドル以上の興収を叩きだす快挙を遂げる。この作品世界を創造したオーレン・ペリに天賦の才能があったのは間違いないが、それだけで成功を収めるのは不可能だった。常に彼を励ましてきたジェイソン・ブラムの優れた嗅覚と行動力あってこそ、かくも映画史に刻まれるほどの下克上を成し遂げることができたのだ。


低予算主義を守り抜く理由とは?



 映画の世界はシビアだ。そう易々と奇跡を連発させてくれるわけではないし、一躍名を馳せたとしても、その後、あっという間に消えていく映画人も大勢いる。しかしこのジェイソン・ブラムというプロデューサーは別格のようだ。彼は『パラノーマル』で得た気流に乗って、なお一層のヒットを連発。作品を重ねるごとに方法論は強化され、低予算という枠内でも決して守りに入ることなく、攻め続ける姿勢が高い評価を受けている。このようなクリエイティブな好循環を維持する秘訣は一体何なのか?


 これを理解するには、再び彼の「低予算論」へと立ち戻らなければなるまい。


 彼のプロデュース作には予算が300~400万ドルのものが多い。観客の中には「ケチ臭い、守銭奴」と彼のことを誤解している人もいるだろうが、彼が低予算を守り抜いているのには理由がある。低予算に抑えることでプロデューサーが口を出す頻度を減らし、むしろその枠内で、監督が自由にのびのびと才能を発揮できるような環境を創出しているのだ。いわば低予算は信頼の証。『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールが初監督作であれほど自分の持ち味を発揮できた理由もここにある。




 同時に、低予算であることは映画が不発だった時のリスクヘッジでもあり(負担も軽く、他の成功でカバーしやすい)、なおかつ、作り手が失敗を恐れず、常に常識をはみ出す “挑戦”を続けるための原動力にもなる。この製作姿勢はさながら「ベンチャー企業と投資家」の良好な関係性とも通ずるところがあろう。ブラムのもとで次々と大胆不敵なフランチャイズが生まれるのはそのためだ。


単線系のものではなく、複線系のものが面白い



 もう一つだけ、ジェイソン・ブラムの映画作りの大きな特徴を挙げるなら、それは「単線系のものよりも、複線系のものを好む」という点に尽きるだろう。ただ単純に怖がらせるだけでなく、そこにもう一つの切り口を掛け合わせることで、観客が想像もしないような化学変化を巻き起こすのだ。


 歴史的に見ても、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』や『ステップフォードの妻たち』『ローズマリーの赤ちゃん』など、優れたホラーはどれも鋭い切り口を兼ね備えていた。それが時代と対峙することで、社会批評の側面さえ不気味に浮かび上がらせていったものだ。その点、『ゲット・アウト』にも、単なる恐怖にとどまらない、「差別や人種の問題」をめぐる独自の視点が搭載されている。過去の名作と同様、社会を深くえぐるような“複線的な構成”がブラムの心を強くかきたてたのは明らかだ。


 さらにブラムはこうも述べている。


 「コメディとホラーにはかなり似た要素がある。ジョークを出すタイミングと怖がらせるタイミングはすごく似ているんだ。その笑いと恐怖のコンビネーション、そして『ゲット・アウト』のテーマ性について熱心に語るジョーダンの姿に感化され、僕はこの映画を手がけようと決心した」




 社会的なテーマを真正面から直接描くのではなく、あくまでコメディアンとしてのキャリアを持つジョーダンが織り成す語り口だからこそ、そこには人と違った 複雑怪奇な魅力が生まれる。ブラムはその相乗効果をいち早く見抜いていたのだ。


 パズルの最後のピースとなるのは人間。ブラックボックスとなりうるのも人間。企画やアイディアのクオリティと同様に、いかにジョーダン・ピールのパーソナリティが本作を決定付けたかがうかがえる。もっと言うと、ピールの人間性や才能へのブラムの深い信頼が、この“複層的な映画”を誕生させる大きな鍵となっていたように思えてならない。


 思えば、いつだってそうだ。『パラノーマル・アクティビティ』のペリや『インシディアス』のジェームズ・ワン、さらには『ヴィジット』や『スプリット』のM・ナイト・シャマランとのコラボにおいても、この “複線的な作り”は健在だった。そこにいつも確固たる信念、そして作り手への厚い信頼があるからこそ、ジェイソン・ブラムは低予算でも一切揺るがない。揺るぎようがない。そうやって自分の嗅覚と、ジョーダン・ピールのような才能との出会いを大切にしながら、今日もまた低予算の映画作りに、自信を持ってゴーサインを出し続けるのである。


 聞くところによると、すでに『ゲット・アウト』の続編も構想されているのだとか。あれほど意表をつく顛末の向こう側にどんな世界が待っているのか。ちょっと覗くのが怖い気もするが、次回もまた低予算の枠内で、失敗を恐れない飽くなきチャレンジを続けてくれることは間違いない。様々な才能や企画を熱くサポートする彼の姿勢は、今後ますますの注目と信頼を集めていきそうだ。 


作品情報を見る


『ゲット・アウト』

10/27(金)TOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー!

配給:東宝東和 公式HP: http://getout.jp/

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