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『ゲット・アウト』ホラー仕掛け人、ジェイソン・ブラムの“低予算の映画術”とは?

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

『ゲット・アウト』ホラー仕掛け人、ジェイソン・ブラムの“低予算の映画術”とは?

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単線系のものではなく、複線系のものが面白い



 もう一つだけ、ジェイソン・ブラムの映画作りの大きな特徴を挙げるなら、それは「単線系のものよりも、複線系のものを好む」という点に尽きるだろう。ただ単純に怖がらせるだけでなく、そこにもう一つの切り口を掛け合わせることで、観客が想像もしないような化学変化を巻き起こすのだ。


 歴史的に見ても、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』や『ステップフォードの妻たち』『ローズマリーの赤ちゃん』など、優れたホラーはどれも鋭い切り口を兼ね備えていた。それが時代と対峙することで、社会批評の側面さえ不気味に浮かび上がらせていったものだ。その点、『ゲット・アウト』にも、単なる恐怖にとどまらない、「差別や人種の問題」をめぐる独自の視点が搭載されている。過去の名作と同様、社会を深くえぐるような“複線的な構成”がブラムの心を強くかきたてたのは明らかだ。


 さらにブラムはこうも述べている。


 「コメディとホラーにはかなり似た要素がある。ジョークを出すタイミングと怖がらせるタイミングはすごく似ているんだ。その笑いと恐怖のコンビネーション、そして『ゲット・アウト』のテーマ性について熱心に語るジョーダンの姿に感化され、僕はこの映画を手がけようと決心した」



『ゲット・アウト』(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved


 社会的なテーマを真正面から直接描くのではなく、あくまでコメディアンとしてのキャリアを持つジョーダンが織り成す語り口だからこそ、そこには人と違った 複雑怪奇な魅力が生まれる。ブラムはその相乗効果をいち早く見抜いていたのだ。


 パズルの最後のピースとなるのは人間。ブラックボックスとなりうるのも人間。企画やアイディアのクオリティと同様に、いかにジョーダン・ピールのパーソナリティが本作を決定付けたかがうかがえる。もっと言うと、ピールの人間性や才能へのブラムの深い信頼が、この“複層的な映画”を誕生させる大きな鍵となっていたように思えてならない。


 思えば、いつだってそうだ。『パラノーマル・アクティビティ』のペリや『インシディアス』のジェームズ・ワン、さらには『ヴィジット』や『スプリット』のM・ナイト・シャマランとのコラボにおいても、この “複線的な作り”は健在だった。そこにいつも確固たる信念、そして作り手への厚い信頼があるからこそ、ジェイソン・ブラムは低予算でも一切揺るがない。揺るぎようがない。そうやって自分の嗅覚と、ジョーダン・ピールのような才能との出会いを大切にしながら、今日もまた低予算の映画作りに、自信を持ってゴーサインを出し続けるのである。


 聞くところによると、すでに『ゲット・アウト』の続編も構想されているのだとか。あれほど意表をつく顛末の向こう側にどんな世界が待っているのか。ちょっと覗くのが怖い気もするが、次回もまた低予算の枠内で、失敗を恐れない飽くなきチャレンジを続けてくれることは間違いない。様々な才能や企画を熱くサポートする彼の姿勢は、今後ますますの注目と信頼を集めていきそうだ。 



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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作品情報を見る


『ゲット・アウト』

10/27(金)TOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー!

配給:東宝東和 公式HP: http://getout.jp/

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※2017年11月記事掲載時の情報です。

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