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『ゲット・アウト』米コメディ界の異端児は、いかにしてネタバレNGの最恐ホラーを作り上げたか?

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

『ゲット・アウト』米コメディ界の異端児は、いかにしてネタバレNGの最恐ホラーを作り上げたか?

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コメディとホラーのインスピレーションは同じ?



 では、ジョーダンは「恐怖と笑い」の関係性についてどのように考えているのだろうか。その発言を紐解いていくと、彼の「両者のインスピレーションは同じ」という持論に行き当たる。彼によれば、人間とはそもそも不条理な存在なのだそうで、その不可解さの正体に触れたい、見極めたいとする思いこそが、観客をホラーやコメディへと向かわせる。そして、笑ったり怖がったりする自分を受け入れる事によって、人は心を浄化して困難や不安を乗り越え、感情をコントロールしながら前に進んでいく事ができる、というのだ。


 また両者は概念のみならず、方法論としても共通するところがある。今回の監督デビュー作においても、ピールは コメディで磨いてきたノウハウや感覚を余すとこなく注ぎ込んだ。それらは、何気ない会話の中に伏線や違和感を散りばめる形でも踏襲されているし、ここぞという場面でガツンと衝撃をもたらす場面でも大いに活かされた。こういった「緊張と緩和」を体内に血肉化していたからこそ、彼はその巧みな語り口に乗せて、観客をスムーズに“不可解さの闇”へと誘うことができたのかもしれない。


 通常だとジャンル・ムービーの中で新しいことを成し遂げるのは困難とされる。だが『ゲット・アウト』はそれを打開するアイディアを、私たちにとって最も身近な精神的基盤、つまり生まれ育った場所、故郷、アイデンティティ、ルーツに見出した。そうやって幼い頃から植え付けられた差別や偏見を赤裸々に発動させることによって、かの「偉大なアメリカ」に偏在する“巨大なモンスター”を浮き彫りにして見せたのである。ユーモアと恐怖と社会風刺が折り重なった刺激的なホラーはこのようにして生まれたのだ。


 オバマ政権時の比較的穏やかな時期に着想された本作は、結果的にピールが避けようとした“時代の荒波”をモロに被りながら、最もこの問題がセンセーショナルかつデリケートに炸裂する時期(トランプ就任直後の2017年2月)に公開を迎えた。彼自身もこのテーマが人々を過度に刺激し、怒らせるのではないかと戦々恐々だったとか。でも幸いなことに、大部分の観客はまず何よりも、この映画が内包する破格のエンターテインメント性に驚き、慄き、心酔した。その上で、人々は本作のテーマについても自ずと思考を巡らせ、それぞれが社会意識を持って対話する機会も生まれているようだ。Rotten Tomatoesが示す高評価と満足度もそこから来るのだろう。ピールの“読み”は見事なまでに当たった。その点をとっても改めてすごい才能の誕生である。


 果たしてこの先、コメディとホラーの紡ぎ手として、いかなる眺めを見せてくれるのか。おそらく快進撃は続くだろう。次回作はもっと凄いことになるはず。我々は笑いと恐怖の心づもりを両方用意した上で、異端児ジョーダン・ピールの仕掛ける“次なる一手”を楽しみにして待ちたいものだ。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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『ゲット・アウト』

配給:東宝東和(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved


※2017年11月1日記事掲載時の情報です。

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