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『ゲット・アウト』米コメディ界の異端児は、いかにしてネタバレNGの最恐ホラーを作り上げたか?
“差別意識”に切り込むアイディアはどのように生まれた?
『ゲット・アウト』では、アフリカ系アメリカ人の主人公が、白人のガールフレンドの家庭へ初めて招待される顛末が描かれる。初めて出会う父母、そして弟。これは人種の壁がなくても少なからず緊張を強いられる人生の一コマなわけだが、ここで登場する彼女の家族がまた厄介なのだ。表向きはリベラルを自称しながらも、口にする言葉の端々にちょっとした差別意識や違和感を挟み込んでくる。しかもこの家の庭やキッチンには、まるで時代を逆行したかのようなアフリカ系の使用人たちが、不気味な笑みをたたえながら立っている。このちょっとした「不可解さ」の集積が、やがてとんでもない恐怖を招くことになるのだが・・・。
多くの人種が共存するアメリカ社会では、こういった文化間の小さな衝突が日常茶飯事で起こりうるもの。しかし、これら一つ一つに目くじらを立てていては生活が成り立たないから、あえてスイッチをオフにしてやり過ごしている部分も多いわけだ。ジョーダン・ピールの着眼点はまさにそこ。この無感覚化されたスイッチを密かにオンに切り替え、日常生活を改めて見つめ直した時に感じる違和感としっかりと対峙してみる。これはある意味、互いの差異に着眼するコメディ的な発想であり、と同時に、差異を断絶として捉えるホラー的発想とも言えるだろう。
『ゲット・アウト』(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved
もともと、コメディアンながらホラー映画の大ファンでもあった彼が、『ゲット・アウト』のアイディアを最初に着想したのは08年。大統領選の真っ只中で、候補者同士が「女性やアフリカン・アメリカンが大統領になること」について討論していた時だったという。ここで彼の意識を捉えたのが、この国をうっすらと覆う“差別や偏見”だ。それらは声高に主張されなくても、また面と向かって直接的に突きつけられなくても、無意識の中で不意に醸し出されてしまうことがる。些細なことだが、それによって知らないうちに相手を傷つけ、また逆に傷つけられることも少なくない。
その後、09年の1月にはオバマ政権が誕生し、アメリカの人種問題は明るい未来に向けて前進しはじめたかに見えた。ピールが脚本を書き始めたのもまさにこの頃で、今ならばこの人種問題をはらんだ題材を、決してセンセーショナルな扱いではなく、あくまで自分の興味関心を追究するような形で掘り下げることができる、と考えたようだ。
さらに、ひょんなことからピールが影響を受けたものとしてエディ・マーフィの存在がある。80年代の伝説的ステージをソフト化した映像作品の中でエディは、当時大ブームとなった『 ポルターガイスト』や『 悪魔の棲む家』について「白人たちはゴーストがいると知りながら、なぜその家に住み続けるんだ?俺がもしゴーストから『出て行け!』と言われたら、何の躊躇もなく、あっという間に出て行くけどね」といった趣旨のジョークを飛ばしたのだとか。おそらくタイトルの『ゲット・アウト』はこの『出て行け!』から引用したのだろう。当初はピールの中でエディ・マーフィを主演にしようと構想もあったそうで、このネタがいかに本作の根底部分に影響を及ぼしたのかが伝わってくる。