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『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』リチャード・リンクレイターが紡ぐ、時間と空間の哲学とは

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』リチャード・リンクレイターが紡ぐ、時間と空間の哲学とは


時間の恐怖に抗う哲学



 もう少し噛み砕いて説明したい。無神論者が死を恐怖するのは、先に無が待っているからである。そして時間は列車のようにそこに向かって突き進み、人はそれに乗って嫌でも進み続けなければならない。だから、自分がいま生きているという実感が持ちづらい。しかし、セリーヌはその途中で、人生で一度きりかもしれない美しい時間を過ごすことができた。


 時間というものは、ただ列車がスタートして目的地へゴールするまでの連続した一本の流れととらえることもできるが、その間を部分的に切り取って、一つの意味を与えることもできるのだ。ちょうど本作が映画作品として成立しているように。もし『邂逅』と同じく、将来二人がどうなるのかを、この作品のなかで描いてしまえば、ウィーンでの時間は、ただ結末に向かって奉仕するだけの存在に成り下がり、結局それは人生の大きな時間のなかに吸い込まれてしまう。


 時間が切り分けられ、独立したものだと考えることができれば、それぞれの時間ごとに独立した意味が与えられる。その時間のなかにおいて、無神論者も生きる意義を見いだすことができる。それは、いうなれば時間の恐怖から解放される一つの哲学である。いま、自分はここで生きている。そして、いつか別の時間、別の場所でも自分は生きる実感を味わうことができる。セリーヌは、過ぎていく時間の象徴である、動き続ける列車の中で微笑み、安堵のなかで目を閉じるのである。




 このような考察が、もし考え過ぎだと思った人は、ぜひ『ウェイキング・ライフ』もあわせて鑑賞してみてほしい。時間の問題について、そして時間を切り取ることができる映画という表現について、リンクレイター監督が、きわめて自覚的であり、問題意識を感じていることが理解できるはずだ。ここではもはや、映画そのものが一つの哲学にまで昇華されているといえよう。映画は、そこまで到達し得る可能性を持っているのだ。



文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。 

Twitter:@kmovie



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『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 <ディスタンス>』

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