SKYFALL(C)2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.
『007 スカイフォール』シリーズ屈指の傑作にみる、シェイクスピア、黒澤明、『ダークナイト』
2019.01.13
作品内に埋め込まれた、過ぎ去りし歴史を見つめる布石
過ぎ去りし歴史を俯瞰し、現在地を見つめる。そういった視点を持って改めてこの作品を紐解くと、脚本のジョン・ローガン(『 グラディエーター(00)』『 ラスト・サムライ(03)』)や監督のサム・メンデスらが物語の随所に目配せのように、大小様々な布石を忍ばせていたことに気づく。
例えば、ロンドンのナショナル・ギャラリー内でボンドとQ(ベン・ウィショー)が見つめるターナーの絵画「解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号」は、まさに過ぎ去りし歴史を媒介にしながら、まるでこれからボンドが辿りゆくかもしれない未来を指し示すかのようだ。
本部を爆破されたMI6が、かつてナチスの爆撃を避けるために使用された遺構「チャーチルズ・バンカー(地下壕)」を仮住まいにしたり、物語の中盤で廃墟と化した無人島(長崎にある軍艦島がモデルとなっている)を持ち出してくるのも示唆的だ。他にも、不屈の精神を示すブルドッグの置物、おなじみのアストン・マーティンDB5、ワルサーPPKといった大小の要素がそれぞれ意味を放ち、互いに共鳴し合いながら大きな物語を編み上げていく。
『007 スカイフォール』SKYFALL(C)2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.
その行き着く先であるクライマックスには、さらなる原点回帰が。そこでの戦い方はまるで西部劇の世界へとタイムスリップしたかのように原始的で荒削りなものだ。サム・メンデス監督はスコットランドの荒涼たる風景を舞台にしたアクションシーンにおいて、あらゆる映画の基礎とも言える黒澤映画を参考にして「地形や構造を生かした描き方」を模索したのだとか。また屋敷内で追い詰められていくボンドの姿には『 蜘蛛巣城』(57)のクライマックスの要素も取り入れているらしい(*1)。つまり撮り方そのものも、映画の原点回帰だったわけだ。
*1…『007 スカイフォール』ブルーレイ サム・メンデスのコメンタリーより