SKYFALL(C)2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.
『007 スカイフォール』シリーズ屈指の傑作にみる、シェイクスピア、黒澤明、『ダークナイト』
2019.01.13
香り立つシェイクスピア的なエッセンス
黒澤映画だけではない。今回は演劇界で名高いサム・メンデスがメガホンを取っているだけあり、どこかシェイクスピア的な空気が漂うのも特徴的だ。メンデス本人もシリーズで代々受け継がれてきた登場人物たちを描くにあたり、シェイクスピア作品と共通するものを感じていたというし(*2)、Q役のベン・ウィショーも似た趣旨のことを述べている(*3)。さらにウィショー、レイフ・ファインズ、Mの補佐役のロリー・キニアは三者ともハムレット役を演じた経験のあるシェイクスピア俳優としても知られ、DVDのコメンタリーではメンデスが3人の共演シーンを「スリー・ハムレット」などと呼ぶ場面も見受けられるほどだ。それは本当に些細なシーンではあるものの、意識してみると全く趣きが違って見えてくる。
『007 スカイフォール』SKYFALL(C)2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.
このように歴史と伝統、研ぎ澄まされたセリフ、ふと湧き上がるユーモア、あっというような劇的な展開、それらの運命に抗おうとする一人一人のキャラクターが相俟って、従来では考えられなかったほどの「格調高さ」へと結実していく。それが『スカイフォール』の凄みなのだ。
『ダークナイト』化してディープに掘り下げるストーリー
さて一方、本作の公開時には、「007のダークナイト化」という言葉もよく聞かれた。つまり、従来の007に比べてダークな側面を掘り下げている点が、かのクリストファー・ノーラン監督の代表作『 ダークナイト』(08)と似ているというのである。
思えばイギリスにとってオリンピック・イヤーでもあった2012年には、まずノーランの最新作『 ダークナイト・ライジング』が公開され、続くオリンピック開会式ではリアルな女王陛下が出演するダニー・ボイル演出の番外編「007」が描かれた。そして同年の10月、満を持して登場したのが本作『スカイフォール』。こういった流れの中、共に長い歴史を持つヒーローであるジェームズ・ボンドとバットマンは、極めて比較されやすい条件下にあったとも言える。
『007 スカイフォール』SKYFALL(C)2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.
のちに、その「似ている」という反応は必ずしも的外れではなかったことが分かってくる。というのも、サム・メンデス監督自らが『ダークナイト』の影響について認めているからだ(*4)。
メンデスは、このノーラン監督が打ち立てた最高傑作について「あらゆる人々にとってのゲームチェンジャーだった」と称賛の言葉を惜しまない。ノーランはこの映画業界において、娯楽性とメッセージ性を兼ね備えた超大作というものがきちんと成立しうることを証明したのだ、と。それに『ダークナイト』は、たとえ内容がダークであっても観客はきちんと付いてきてくれることを商業的に裏付けた作品でもある。このことはメンデスが『スカイフォール』を進める上で大きな自信となったという。
*2 … 「BBC」 https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-18525498
*3 … 「INDEPENDENT」 https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/tv/features/ben-whishaw-playing-q-in-skyfall-was-a-bit-like-doing-shakespeare-8364146.html
*4 … 元々は「Playlist」の記事だが、URL元が消滅しているようなので、その引用部分を転載した記事を二つ併記。
https://screenrant.com/skyfall-interview-sam-mendes-james-bond-dark-knight/
http://collider.com/sam-mendes-skyfall-the-dark-knight/