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『ミッション:8ミニッツ』衝撃のループ・ワールドから浮かび上がる、ダンカン・ジョーンズの作家性 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『ミッション:8ミニッツ』衝撃のループ・ワールドから浮かび上がる、ダンカン・ジョーンズの作家性 ※注!ネタバレ含みます。

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『月に囚われた男』にも通じる「複製されたもの」というテーマ



 もしかすると、本作のクライマックスでは「えっ?どう言うこと?」と頭の中を疑問符でいっぱいにしてしまう人もいるだろう。


 そういう方々の解釈の助けとなるのが、ダンカン・ジョーンズの前作『月に囚われた男』だ。この作品ではサム・ロックウェル演じる主人公が、いつしか二人になり、そして三人になる。なぜそうなったのかの言及はここでは避けるが、本作で語られる印象深いセリフが面白い。


 「俺たちはプログラムじゃない。人間なんだ」


 つまり生まれてきた理由はどうあれ、一人一人が確固たる人格と尊厳を持っているということだ。


 一方、『ミッション:8ミニッツ』では、この「8分間の再生」が特殊技術を用いた単なるプログラム上のものとして説明されるが、物語のクライマックスで主人公が身をもって体験するのは「決してそうではなかった」ということである。


 何度も送り込まれて、その都度吹き飛ばされた世界は、バーチャルなものではなかったのだ。ある意味、パラレルワールドというべきか。そこでは装置を起動するたびに、並行して存在する世界が生まれる。それらは「列車の8分間」が終わってもなお、現実世界と並行して存在し続ける世界なのである。



『ミッション:8ミニッツ』(c)Photofest / Getty Images


 それだけでない。作り手たちがブルーレイの音声解説で語っていることに耳を傾けると、面白いことがわかってくる。つまり、パラレルワールドでは爆発を繰り返すたびに、そこにいる乗客たちが死んでいる。現実世界を救おうと何度も強制的に8分間を繰り返す司令室は、知らず知らずのうちにパラレルワールド内でおびただしい数の乗客たちを殺しているのである。


 プログラムだから気にする必要はないと捉える彼らだが、実際にはその一つ一つが唯一無二の人格と尊厳を持った存在だったとも言えるのだ。もちろん、それは箱の中の主人公においても同じこと。


 とするならば、ここで描かれたテーマは『月に囚われた男』と極めてよく似ていたことになる。表向きはまるきり異なるタッチ、異なるジャンルに思えるものの、やはりそこには「複製されたもの」をめぐる強烈な作家性がにじみ出ていたということか。


 ここでヴァルター・ベンヤミンが著した「複製技術時代の芸術」を持ち出すのはいささかやりすぎかもしれないが、映画という芸術もまた、この「複製」という概念から決して切り離すことができないのは周知のとおりだ。


 かくも深みにはまるとそこに8分間を超えた底知れぬ世界が見えてくるのが本作の凄みである。しかもそれをエンターテインメントの領域でしなやかにこなしているのが、また凄い。筆者はダンカン・ジョーンズの『MUTE』もとても面白く見たが、この類まれなる映像作家が今後どんな世界を切り開いていくのか、引き続き楽しみに待ちたいと思う。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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