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『運び屋』自らの人生とフィルモグラフィで映画を再創造してみせた、イーストウッドのベスト盤!

『運び屋』自らの人生とフィルモグラフィで映画を再創造してみせた、イーストウッドのベスト盤!


作中に散りばめられたイーストウッドの刻印



 『運び屋』はイースウッド演じるアールという老人が妻や子供たちと和解し、家族を再生するという物語である。アールは高級ユリの栽培という仕事で若いころから全米を車で駆け回り、家庭をかえりみず、妻や娘から愛想をつかされている。彼は家族との関係を再構築するために麻薬の運び屋になっていく。


 イースウッドは主人公が置かれた状況をこう語っている。「アールは、自分の家族を幸せにできていないことを知っていて、もう一生、許してもらえないかもしれないと気づいている。それは猛烈な一撃だ」これはイースウッドが長年に渡って描いてきた「贖罪」という大きなテーマにつながる状況設定だ。




『許されざる者』では西部劇の陰惨な部分を描き出すことで、西部劇スターとしての自分を相対化し、『グラントリノ』では自らをハチの巣にすることで、『ダーティハリー』(71)のような自警団思想を体現するスターとしての自分を「殺し」た。2作に共通するのは、強い罪の意識に苛まれる男が如何にしてその「罪」と折り合いつけるかという物語であり、主演作ではないが『アメリカン・スナイパー』(14)などにも同様のテーマが伏流している。


 さらにもう一つ、イーストウッド映画の大きな特徴とも言える「教育」というテーマも『運び屋』ではそこかしこに顔を覗かせる。「俺みたいになるんじゃないぞ。もっとも大事なものをないがしろにして、俺は仕事を優先した」「人生を楽しめ。俺みたいに」「本当に好きなことを見つけて、それをやれ」。こんなセリフで主人公のアールは麻薬カルテルの構成員や麻薬捜査官に説教をきめる。


 イースウッドの作品において、年長者がメンターとして若者を教え諭すことは、ずっと重要な要素だった。『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(86)での新兵たちをしごく鬼教官、『ルーキー』(90)の新米刑事を教育するベテラン刑事、さらに『グラントリノ』ではモン族の少年にアメリカンスピリッツを叩きこむ老人が「教育者」として物語を駆動させた。




 かように『運び屋』にはイースウッドが映画人生で描いてきた要素が多く見受けられるが、本作を「建築物」に例えるなら、過去のイーストウッド作の要素が「柱」や「壁」となって組みあがっており、しかもそれらが一つの建物として絶妙な調和を保っていて、飽きさせない。そんな不思議な「建築物」を支える「土台」となる要素こそ、近年のイーストウッド作品最大の特徴である実話主義だろう。



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