2018.03.16
※2018年3月記事掲載時の情報です。
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イーストウッド最大のテーマ「教育」
クリント・イーストウッド監督の最新作『15時17分、パリ行き』は3人の青年が無差別テロによる殺戮を未然に防いだ実話をもとにした作品だ。実際に事件を体験した本人たちの半生と事件現場を一切の脚色なしに再現するという前代未聞の手法で、上映時間は94分。イーストウッド作品史上最も短いランニングタイムとなった。映画的な虚飾(ウソ)を極限までそぎ落とし、彼はこの作品で何を伝えたかったのか。それはイーストウッド作品の根底に流れ続ける重要なテーマ、「教育」と「伝承」に大きな手掛かりがある。
クリント・イーストウッドのフィルモグラフィはアメリカ映画のジャンル見本市かのようにバラエティ豊かだ。アクション、サスペンス、戦争、恋愛、スポーツ、音楽・・・。
現在までの監督作は34本を数えるが、その中でイーストウッドが最も大切にしてきたテーマこそ「教育」である。分かりやすく言えば、成長物語、「ビルドゥングスロマン」だ。日本流にいえば「師弟物語」で、かの黒澤明が好んで描いたテーマでもある(『 七人の侍』『 野良犬』などで志村喬と三船敏郎の関係性は常に師弟としてデザインされた)。イーストウッドも師匠が未熟な弟子を教え諭し、ひとかどの「大人」へと成長させる物語を様々なパターンで描いてきたのだ。