『ゴッドファーザーPARTII』莫大な権力を手にしたマイケル・コルレオーネと重なる、フランシス・フォード・コッポラ

派手な事件が詰まった“動”の前半と、ストイックを貫いた“静”の後半。

　そしてもうひとつ、コッポラは商業映画にあるまじき型破りな構成を押し通した。3時間20分ある『PARTII』は、往年の大長編映画らしく途中でインターミッション（休憩）が挟み込まれ、前半と後半に分かれているのだが、動的な見せ場がほとんど前半に集中しているのだ。冒頭のパーティーシーンに続くマイケル宅への襲撃に始まり、兄フレドの裏切り、今回のラスボス的存在であるハイマン・ロスとの対決、そして激動のキューバ革命の渦中へと、事態が雪だるま式にエスカレートしてく怒涛の前半は、それだけでも独立した大作映画として成立する。

　しかし、これだけ盛り上がる前半とほぼ同じ分量の後半は、打って変わって静の世界に転調する。後半の中心は、フランクが告発者となってコルレオーネ・ファミリーの実態を暴こうとする公聴会の行方であり、また、妻ケイや弟フレドとの壊れてゆく人間関係である。トレードマークのバイオレンスや陰謀劇は鳴りを潜め、クライマックスに大殺戮が繰り広げられるシリーズの十八番とも言える展開も踏襲されない（ただし『PARTIII』では復活するが）。

『ゴッドファーザーPARTII』Copyright (C) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (C) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM， (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

　『PARTII』の後半、とりわけ「現代パート」は、もはやマフィア映画というより人間の闇を探求する心理劇である。かつては理想と情熱に燃えていたマイケルは、事態を打開するためではなく、ただファミリーの権威と自身の権力を誇示するために、3人の人間の命を奪うのだ。そのうすら寒さが、作品の殺伐とした寂寥感を決定づけるのである。

　コッポラは、前作『ゴッドファーザー』の制作について、スタジオからの横やりが多く「嫌なことばかりだった」と述懐している。『ゴッドファーザー』が傑作である事実は変わらないが、コッポラにとって前作は、雇われて作った商業映画だったのかも知れない。そして『PARTII』では、商業映画としてのコマーシャリズムを投げ捨てるような実験性を貫くことで、前作とは似て非なる新たな傑作をものにしたのである。

　スタジオの強引な要請で引き受けた『PARTII』について、コッポラは「たまたま上手くいった」と皮肉交じりに話す。しかし本作でアーティストとしての最大限の自由と権力を味わったからこそ、次作『地獄と黙示録』(79)のカオスに満ちた映画作りに邁進することができたのではないか。コッポラはやがて誇大妄想狂的な映画作りで大成功と大失敗の両方を体験し、浮き沈みの激しい映画人生を歩むことになる。コッポラが『ゴッドファーザー』三部作を通じて「無制限の権力が人を腐敗させる」というテーマを描いたことは、映画史上の大きな皮肉でもあるのだ。

参考資料：

『ゴッドファーザーPARTII』Blu-ray、監督コメンタリー

ハーラン・リーボ著『ザ・ゴッドファーザー』（ソニー・マガジン刊）

文： 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。

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作品情報を見る

『ゴッドファーザー PART II <デジタル・リストア版>』

Blu-ray：2,381円＋税／DVD：1,429円＋税

発売元：NBCユニバーサル・エンターテイメント

※2019年3月の情報です。

Copyright (C) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (C) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM， (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.